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CIRCLE  作者: 志に異議アリ


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7/9

波紋



世界は、ついに爆発寸前だった。


各国の代表たちは互いを敵と断じ、会議はもはや“外交”というより喧嘩の前の睨み合いになっていた。


SNSではフェイク動画が拡散し、人々の恐怖は怒りに変わり、街ではデモが暴徒化。


日本でも防衛省が緊急警戒態勢に入り、アラタのいる情報室は徹夜続きで疲弊していた。


「――これは……もう、どこかで引き金が引かれる」


アラタが低く言う。

若手が顔を青くする。


アジアの軍事衛星の動きが活発化し、

ヨーロッパの国が敵国と見做す相手に向けてミサイル配備を開始。


アメリカは「報復の準備」と声明。


ほんのわずかな誤解が、世界を破滅へ導きかねない。


まるで――


見えない敵に恐怖した全人類が、同時に拳を振り上げているみたいだった。



―――


イツキは、研究所の防音室で膝をついていた。


胸の奥の共鳴は、これまでで一番強い。


地球の脈が速い。

苦しそうにさえ感じる。


(……やばい。

地球が、この人間の怒りの波を……拒絶し始めてる)


地球は怒っているのではない。

過剰な刺激を受けて、反射的に身体を硬直させているだけだ。

人間なら、ストレスで呼吸が乱れるときのように。


そして――イツキにはわかった。


もし今、何かひとつでも怒りの矛先が動けば、地球がもう一度[脈打つ]。


今度は0.2秒では済まない。


数秒――いや、

数十秒なら、都市ひとつが沈む。


「……止めなきゃ」


イツキは立ち上がる。

このままでは間に合わない。


研究所の人間に言葉で説明しても、信じてもらえない。

政治家も軍も、もう疑心暗鬼で耳を貸さない。


ならば――


地球を通して伝えるしかない。


イツキは外へ走った。

靴を脱ぎ、素足で凍える大地に立つ。


胸の奥で、地球の脈と自分の鼓動が混ざり合う。

呼吸をひとつ、深く。


ゆっくりと、地面に手を置いた。


(聞こえるか……?

俺は人間だけど、敵じゃない。

頼む、どうか……暴れないでくれ)


波が走る。


それは地球の脈を逆撫でしないほどの、極限まで抑えた微振動。


イツキの呼吸が

自然の波と一致し、

その波は、

地中へ、

地殻へ、

海へ、

空気へ

――広がっていく。



―――


世界各地では、不可解な現象が同時に起こった。


戦闘態勢に入っていた軍事基地で建物全体がかすかに揺れ、兵士たちが一瞬だけ耳鳴りを覚える。


暴徒化していた街で

暴れようとした人々が、唐突に動きを止める。


胸が【整う】ような、不思議な静けさを感じた。


―――


国連の緊急会議室で

激しく怒鳴り合っていた代表たちが、

同時に言葉を止めた。


誰も理由はわからない。

ただ――

全員が、同じ感覚を覚えた。


「……なんだ?

胸が、急に……落ち着いた?」


「まるで……深呼吸したみたいだ……」


SNSも同じだった。

数分前まで地獄のように荒れていたタイムラインが、

嘘みたいに静まり返った。


暴発の瞬間は、かろうじて回避された。



―――


イツキは地面に手をついたまま、息を震わせた。


(……届いた。

でも、こんなこと……いつまでも続けられない)


地球はまだ不安定だ。

人間の恐怖も収まっていない。

これはただの一時しのぎだ。


それでも――


確かに、世界は止まった。


イツキの微かな振動が、

全人類の胸の鼓動をほんの一瞬だけ整えたのだ。


「……次は、言葉で伝えなきゃ。

このままじゃ、また同じことが起きる」


でもどうやって?


イツキは一般人。

国家に届く力も、SNSで拡散される力もない。


(……誰か。

 俺の代わりに世界へ届けられる奴を探さないと……)


風が吹く。

地球が少しだけ落ち着いたように感じた。




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