共鳴
イツキは研究所の外に出た。
夜明け前の空気は冷たく、湿った土の匂いが鼻腔をくすぐる。
手を地面に置くと、胸の奥から自然に呼吸が整い、地球の脈に体が同調するのを感じた。
(……これで、届いたのか)
画面の向こう、世界は今、イツキの言葉を受け止めている。
都市の灯りの下で、人々の呼吸がほんの少し静かになったのを、彼は無意識に感じ取る。
恐怖に揺れていた心が、波紋のように落ち着きを取り戻す。
遠くの森では、鳥が鳴き、川は静かに流れる。
波が海岸を撫で、空気のざわめきが街から消えていく。
誰も気づかない、けれど確かに変わった世界。
それは、地球と人間の間に生まれた小さな共鳴だった。
イツキは目を閉じる。
胸の奥に流れる地球の声を感じながら、思う。
(まだすべては終わらない。混乱は消えていない。でも、希望はここにある)
手を離すと、体の震えは自然に収まった。
世界の人々も、同じように息を整えている。
目に見える変化はわずかだが、心の奥底で、誰かが確かに気づいたはずだ。
小さな波紋は、やがて大きな流れになるかもしれない。
けれどその前に、世界は一瞬、静かに呼吸を取り戻した――。
イツキは微かに笑った。
自分の声と地球の声が、交わった瞬間の静寂を噛み締めながら。
そして、夜明けの光が大地を柔らかく照らす。
世界はまだ動き続ける。
でも、今だけは――確かに平和だった。
ほんの少しだけ、
地球と仲直りできたような気がした……
続編はSPIRALへ




