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CIRCLE  作者: 志に異議アリ


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12/14

沈黙



世界は、イツキが画面の向こうに現れた瞬間から、

音を失ったように静まり返った。


アレックス・ローワンの巨大なフォロワー網は、

数十億の視線をリアルタイムで同一点に縫いとめる“世界最大の窓”。

その中心にいま、ひとりの名もなき地質学者が立っている。


ローワンは英語でゆっくりと説明した。

「He has something earth itself wants to say. Not a theory. Not a metaphor.

He carries a proof that cannot be ignored.」

「彼には、大地そのものが言いたがっている何かがある。理論ではない。比喩でもない。

彼は、無視することのできない証明を携えている」


その言葉の重さが世界をざわつかせ、

同時に更なる静寂を落とした。


画面が、イツキへ切り替わる。


白衣ではなく、普通のシャツ。

背景は研究所の廊下。

それだけで、余計な演出も匂わせもないことが伝わる。


イツキは喋らない。

ただ、深く息を吸った。


胸がわずかに上下し、

その呼吸だけが世界の全チャンネルに共有される。


――その沈黙が、

ローワンの説明よりも雄弁だった。



―――


▼アメリカ


軍事的緊張が最高潮。

司令室の兵士たちがスクリーンを見つめ、

武器を握る手が止まる。

一人がつぶやく。


「……何だ、この静かさは」


誰も応じない。

敵の動きすら止まったような錯覚に陥っていた。



―――


▼ドイツ


首相官邸の会議室では、

政治家たちが言い争いをしていたはずだった。

だが、イツキが画面に映った瞬間、

全員の口が自然に閉じた。


「警告を発する顔じゃないな」

誰かがそう呟いた。

怒りでも恐怖でもない、

ただ真剣に“聞こうとしている顔”だった。



―――


▼中国


SNSの炎上が続き、デマも暴走していた地域。

人々の通知音が止んだ。

誰もがスマホを持ち上げ、沈黙の画面をのぞき込む。

喫茶店でも、地下鉄でも、広場でも――

今だけは、誰もが同じ時間の中にいた。





▼イギリス


サラはニューススタジオの椅子に座ったまま、

原稿を持つ手を止めた。


「あの目……さっきよりも深いわ」


カメラマンも頷く。

「アイツ、本当に何か“聞いてる”目だな」


サラはモニターに近づき、

画面の中のイツキの両手に目を止めた。

地面に触れてはいないのに、

“触れているように”見えたのだ。



―――


▼日本


防衛省。

アラタはモニター前に立ち尽くしていた。


「……喋らないのか?」


若手が小声で問う。


「いや……違う」

アラタはゆっくり首を振る。

「彼は、まだ話すべきじゃないとわかってる。

世界が呼吸を整える瞬間を、待ってる」


それを聞いた若手は黙った。

たしかに今、世界は“ひとつの呼吸”を待っている。



―――


▼研究所


イツキ自身は、世界の反応を見ていなかった。

それどころか、モニターの存在にも意識を向けていない。


彼の全神経は、足裏から伝わる振動に集中していた。


地球の脈が、まだ荒い。

怒りと悲しみの中間にあるような、重い波。


(……待ってるのか。

俺の呼吸を……)


ゆっくり息を吸い、

ゆっくり吐く。


地球の脈が一瞬だけ、

イツキの呼吸と重なった。


その重なりは誰の耳にも聞こえないが、

世界の画面に映る沈黙が“意味のある沈黙”へ変化していく。


イツキはまだ話さない。


話す前に、

世界に準備をさせている。


沈黙は恐怖ではなく、

静かで、深く、

どこか優しい重みを帯びていく。



―――


◆そして――


世界は、次の一言を待つ。



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