世界に
アレックス・ローワンはスタジオではなく、自宅の白い部屋にいた。
背景は何もない。
余計な[演出]が不要なほど、
彼自身の言葉が世界に影響を与えると理解している男の顔だった。
カメラがオンラインに切り替わる。
英語で落ち着いた声が世界中のスマホとテレビを満たす。
「みんな落ち着いて聞いてくれ。
世界中で[敵の正体がわからない攻撃]が続いている。
でも、この混乱には——ほんの僅かだが、違う可能性がある」
SNSは一瞬で沸騰した。
ローワンが[攻撃]という単語を使っただけで、
恐怖と憶測が渦のように膨れ上がる。
彼は続けた。
「俺たちは『何者かに攻撃されている』と決めつけている。
だが、もし……これは地球自身の反応だとしたら?」
世界にさざ波が広がる。
しかし誰もまだ信じていない。
画面越しの彼の声はいつもより静かで、慎重だった。
「今から、ある人物と話す。
彼はある証拠を持っている」
コメント欄が瞬く間に爆発する。
《何だよ?》
《科学者?軍人?占い師か?》
《ローワンの友達か?》
画面に一瞬ノイズが走り——
映ったのは、薄暗い研究所の隅に立つイツキだった。
英語でローワンが呼びかける。
「Itsuki, can you hear me?
The world is watching now.」
イツキは軽くうなずき、ゆっくり息を吸った。
英語は得意ではないが、
伝えるべきことはただ一つだ。
「I hear… the Earth.
Not metaphor.
Real vibration… pulse.」
世界の呼吸が止まったような沈黙が流れる。
イツキは続ける。
今度は日本語で、
ローワンがリアルタイムで字幕を乗せていく。
「地球は怒っている。
人間同士が勝手に敵を作り、攻撃しようとしている[状態そのもの]に反応している。
これは武器の起動でも、軍事行動でもない。
地球の脈だ」
ローワンが補足するように英語を挟む。
「He’s not claiming magic.
These are synchronized crust pulses.
Human aggression is amplifying them.」
―――
日本、
防衛省のアラタは画面を見つめたまま固まっていた。
「……やっぱり、あの地面の揺れ……異常じゃなかったんだ」
―――
イギリスのニュースルームではサラが椅子から身を乗り出す。
「脈動……地球の呼吸……?
彼、嘘をついている目じゃないわ」
―――
某国軍司令部
「攻撃の可能性は?」
「……不明。しかし、地球が原因なら互いに撃ち合っても意味がない」
―――
別の大国
「ローワンが出てきたということは、本当に世界規模の異常なのか」
「だが地球の脈など信じられるか?」
―――
海沿いの小国
「もし本当なら……攻撃準備はやめるべきだ」
「だが、他国が止めなければ我々だけが無防備になる」
―――
日本の普通の家庭でも
子ども「地球さん、痛いんかな」
母親「……かもしれないね」
―――
SNS全世界トレンド
#EarthPulse
#RowanLive
#Itsuki
#地球の脈
#攻撃は誰だ
波紋は秒単位で広がり、
各国首脳はテレビ会議の緊急招集を開始する。
そして画面の中のイツキは、
静かに地面に手を置き、
深い呼吸をひとつ。
「これは……地球のお願いでもある」
ローワンが息をのむ。
「何を?」
イツキは答えた。
「——人間たちよ、落ち着け」
その言葉と同時に、
世界中で地面が穏やかに揺れた。
脅威ではない。
まるで、母親が泣きじゃくる子を抱きしめるような……
柔らかな振動だった。
世界はその瞬間、
初めて攻撃されていない感覚を共有した。
そして混乱の渦が、わずかに静まった。




