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[完結]魔王戦の直前に毎回戻されるので、今日も王様を連れて行きます  作者: 遠野 周


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5/6

勇者よ、あっぱれじゃ!

 ――ロード完了。

 BGM「運命の対決」。

 リスポーン地点、魔王城前。


「勇者よ、魔王を倒すのじゃ!」

「また愚かな人間がやってきたな!」


「おはようございます!」


 俺は笑って手を振る。

 今日は特別だ。

 この“負荷テスト”を、最後までやり切る。


 ルートはもう決まってる。


 ① 王様同行(玉座ごと)

 ② 魔王も引き連れ、裏マップ経由

 ③ バグ水場で沈没→無限落下

 ④ リスポーン境界ぎりぎりで負荷最大化


「勇者よ、魔王を倒すのじゃ!」

「愚かな人間どもよ!」


「いい返事です。じゃ、出発!」


 魔王城の外壁が透け、空間が歪む。

 テクスチャの切れ目を抜けるたび、ノイズが強くなる。


 世界がチラつき、音声がぶれる。

 それでも俺は進む。


「――ここまでくれば、あとは……!」


 最後の段差を跳ぶ。

 落下エフェクト。

 視界がひっくり返る。


 白と黒が混じる空間。

 BGMが止まり、ノイズだけが響く。


「陛下、聞こえますか?」


「ゆ……う……しゃ……」


 確かに返事があった。

 王様の顔がゆらいでいる。


「もう……よい……」


「え?」


 王様の声が、まるで別人のように静かだった。


「……そなた……帰りたいのか……」

「……もし……帰れるなら……帰るがよい……」

「……この国のことは……わしらに……任せておけ……」


 音が歪む。

 けれどその言葉は、確かに王としての温かさを帯びていた。


 その隣で、魔王もまた崩れながら呟いた。


「……おまえ……外の……人間……だろう……」

「……帰れるのか……」

「……そんな顔で……戦うな……」


 途切れ途切れの音が、まるで祈りみたいに重なった。


「……魔王を倒すための……勇者じゃ……もう……ない……」


 俺は目を閉じて、うなずいた。


「……帰らないよ」


 二人の影が揺れる。


「この世界を――外に出す。

 閉じ込められたままじゃ終われない。

 “倒す”の先を、ここから始めるんだ」


 ノイズが強まり、世界がひずむ。

 白と黒の境界が溶け合い、音が裏返る。


「リセットで終わる物語を、続きへ変える。

 王様も、魔王も、もう“台詞”じゃない。

 これからは――“生きる”んだ」


 白光が強まる。

 王様と魔王の輪郭がノイズに溶けていく。


「我が力にひれ伏せ!」

「勇者よ、魔王を倒すのじゃ!」


 最期の最期まで、定型文。

 けれどその声は、どこか優しかった。


 視界が完全に白に染まる。

 そして――暗転。


 見慣れたタイトル画面。

 けれど、BGMは流れない。


 かわりに、小さな文字が浮かんでいた。


【システム負荷を検出しました】

【ストーリー構造を再編します】

【目的:クリア → 継続】

▶ 実行


 俺は、迷わず「A!」と叫んだ。

 光がまた広がる。

 ロードバーが進み、止まる。


 次の瞬間、風の音。

 鳥の声。

 ……そして――


「おお、そなた! また来たのじゃな!」


 目を開けると、王様がいた。

 だが背景が違う。


 緑の丘、流れる雲。

 魔王城は崩れていた。


 暗雲ではなく、ただの“空の下”。


 魔王が、太陽を見上げていた。


 その姿はもう、データの残滓じゃなかった。


 王様が玉座から降り、

 空気を吸うように大きく息をした。


「勇者よ、あっぱれじゃ!」


 魔王が小さく笑った。


「馬鹿な……我が……この空に……ひれ伏すとはな」


 俺は笑った。


「ほら、陛下も。魔王も。

 ――ようこそ、“クリア後の世界”へ。」


 三人の笑い声が風に混じる。


 たぶんまだ、ここはゲームの世界。

 けれどもう、“物語”は終わった。

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