リセットの隙間
――ロード開始。
BGM「運命の対決」。
王様、玉座ごと同行。魔王、戦闘稼働中。
ここまではいつも通り。
けど今日は、もうひとつ先を確かめてみる。
「では本日も実験を開始しまーす!」
「勇者よ、魔王を倒すのじゃ!」
「また愚かな人間がやってきたな!」
「はい、出席確認OK。では二人とも、物理負荷テストです」
俺は笑いながら、剣を肩にかけた。
――ま、画面の外でも中でも、やることは同じだ。
バグを見つけて、ぶっ壊して、笑って遊ぶ。
人生もRPGも、バグだらけだしな。
俺は二人を連れて、
魔王城の天井裏→裏通路→バグ水場→地底無限落下→
そして最後に、リスポーン境界ぎりぎりへ。
このルートを通ると、世界が揺れる。
処理落ち、音ズレ、ノイズ。
そして――
“世界が限界まできしむ瞬間”がくる。
画面がちらつく。
王様のマントが乱れ、魔王のシルエットが分裂する。
負荷ゲージ(見えないけど確実にある)を、肌で感じる。
「……いける。ここだ」
俺はリセットの直前、限界まで処理を引き延ばす。
白光の“間”で、音が混じった。
「ゆ……う……しゃ……」
「え?」
王様の声。
決してスクリプトにない、かすかな震え。
「……ま……もう……」
ノイズが入り、音が引きちぎれる。
続いて、魔王。
肩を震わせ、目の奥がノイズに染まる。
「……お……ま……え……」
その声は、怒鳴りではなかった。
弱く、掠れて、
まるで“誰か”を思い出しているような。
「……おまえは……まだ……見て……」
ノイズが走り、視界が白く焼ける。
また世界はリセットされた。
いつものリスポーン地点で座り込む。
「……これだ」
俺は呟く。
リセットの瞬間、負荷が限界を超えたとき――
定型文の外側から“人間の声”が漏れる。
この世界に意識が残っている証拠だ。
王様も、魔王も、ちゃんと“中にいる”。
でも、それを聞くには、
また世界を壊すしかない。
白い光が迫る。
処理が限界に達する。
「……陛下、魔王、もう少しだけ耐えてくれ」
「勇者よ、魔王を倒すのじゃ!」
「愚かな人間どもよ!」
ノイズが爆発する。
「……ゆ……う……しゃ……また……」
「……ま……た……な……」
音が重なり、世界が弾けた。
真っ白な空間に、ひとり。
BGMはない。
ただ目の前でロードバーが光る。
俺は、息をついた。
「――そうか。リセットの“隙間”か」
この世界を脱出する鍵は、
その一瞬にしか存在しない。
負荷の果て、世界が崩れる、その刹那に。




