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[完結]魔王戦の直前に毎回戻されるので、今日も王様を連れて行きます  作者: 遠野 周


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4/6

リセットの隙間

 ――ロード開始。

 BGM「運命の対決」。

 王様、玉座ごと同行。魔王、戦闘稼働中。


 ここまではいつも通り。

 けど今日は、もうひとつ先を確かめてみる。


「では本日も実験を開始しまーす!」


「勇者よ、魔王を倒すのじゃ!」

「また愚かな人間がやってきたな!」


「はい、出席確認OK。では二人とも、物理負荷テストです」


 俺は笑いながら、剣を肩にかけた。


 ――ま、画面の外でも中でも、やることは同じだ。

 バグを見つけて、ぶっ壊して、笑って遊ぶ。

 人生もRPGも、バグだらけだしな。


 俺は二人を連れて、

 魔王城の天井裏→裏通路→バグ水場→地底無限落下→

 そして最後に、リスポーン境界ぎりぎりへ。


 このルートを通ると、世界が揺れる。

 処理落ち、音ズレ、ノイズ。

 そして――


 “世界が限界まできしむ瞬間”がくる。


 画面がちらつく。

 王様のマントが乱れ、魔王のシルエットが分裂する。

 負荷ゲージ(見えないけど確実にある)を、肌で感じる。


「……いける。ここだ」


 俺はリセットの直前、限界まで処理を引き延ばす。

 白光の“間”で、音が混じった。


「ゆ……う……しゃ……」


「え?」


 王様の声。

 決してスクリプトにない、かすかな震え。


「……ま……もう……」


 ノイズが入り、音が引きちぎれる。


 続いて、魔王。

 肩を震わせ、目の奥がノイズに染まる。


「……お……ま……え……」


 その声は、怒鳴りではなかった。

 弱く、掠れて、

 まるで“誰か”を思い出しているような。


「……おまえは……まだ……見て……」


 ノイズが走り、視界が白く焼ける。


 また世界はリセットされた。

 いつものリスポーン地点で座り込む。


「……これだ」


 俺は呟く。


 リセットの瞬間、負荷が限界を超えたとき――

 定型文の外側から“人間の声”が漏れる。


 この世界に意識が残っている証拠だ。

 王様も、魔王も、ちゃんと“中にいる”。


 でも、それを聞くには、

 また世界を壊すしかない。


 白い光が迫る。

 処理が限界に達する。


「……陛下、魔王、もう少しだけ耐えてくれ」


「勇者よ、魔王を倒すのじゃ!」

「愚かな人間どもよ!」


 ノイズが爆発する。


「……ゆ……う……しゃ……また……」

「……ま……た……な……」


 音が重なり、世界が弾けた。


 真っ白な空間に、ひとり。

 BGMはない。

 ただ目の前でロードバーが光る。


 俺は、息をついた。


「――そうか。リセットの“隙間”か」


 この世界を脱出する鍵は、

 その一瞬にしか存在しない。


 負荷の果て、世界が崩れる、その刹那に。

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