表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
[完結]魔王戦の直前に毎回戻されるので、今日も王様を連れて行きます  作者: 遠野 周


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/6

魔王と王様、裏世界へ行く

 ――今日も始まった。

 リスポーン地点、魔王城前。BGM「運命の対決」。


「また愚かな人間がやってきたな」


「はいはい、朝の挨拶ありがとう」


 もうこの世界で、俺に挨拶してくれるのは魔王だけだ。

 王様? もちろん今日もいる。

 なにせ、連行回数73回目の常連客だ。


「勇者よ、魔王を倒すのじゃ!」


「了解です陛下。では本日も魔王観戦ツアーへようこそ」


 玉座ごと転送。

 ”掴む”連打で王様を壁抜けさせ、後ろに引きずる。

 このルート、もう手慣れたもんだ。


 ついでに、道中のモブにも挨拶しておく。


「おばあさん、今日も“魔王を倒してきておくれ”ですか? はいはい、セリフ確認完了。合格」

「兵士くん、毎日同じ位置で待機、ご苦労さま。ストレッチしなよ。動けないけど」

「神官さん、あいかわらず“神の加護を”って言うだけ。加護、届いてませんよ?」


 返事は、もちろんない。

 でも、もう慣れた。

 この世界は“俺以外、録音テープ”だ。


 俺は剣を構え……ず、

 壁の隙間に体を押し込んだ。


 ――ガコン。


「よし、抜けた!」


 背景の黒い空間を抜け、床の裏に落ちる。

 落ち続けて、落ち続けて……やがて、着地。


 そこは灰色の地平。テクスチャ未設定の世界。

 空には「MAP_ERROR」と白文字が浮かんでいる。


「……懐かしいなぁ」


 昔、バグ動画で見た場所。

 それが、今は俺の散歩コースだ。


 後ろで、なにかがドサリと音を立てた。


「……え?」


 振り返ると、いた。

 ――魔王が、落ちてきていた。


「また愚かな人間がやってきたな」


「うわ、マジでついてきた!? おいおい、追尾範囲どうなってんだ」


 どうやら、“勇者が戦闘エリアにいる”と判定されてるらしい。

 つまり、どこまでも追ってくる。

 追尾モード根性がありすぎる。


 その横で、玉座が軽く着地音を立てた。


「勇者よ、魔王を倒すのじゃ!」


「ほら、陛下も一緒。家族旅行ですね!」


「勇者よ、魔王を倒すのじゃ!」


「いや~、毎日言ってくれると安心しますね。モーニングルーチンですよ」


 俺は笑って、灰色の地平を歩き出した。

 王様、玉座ごと滑走中。

 魔王、定位置のまま追尾中。

 シュールの極みだ。


 三人で歩く。

 足音は鳴らない。

 地面は反射も影もない。


 俺は無意味に話しかけ続けた。


「ここがね、勇者が最初にバグ落ちした座標。記念碑でも建てたいな」


「愚かな人間どもよ!」


「それな。ほんと愚かだよな。何百回も同じとこ歩いてる」


「勇者よ、魔王を倒すのじゃ!」


「はい出ました、安定のセリフ。今日も調子良さそうですね陛下」


「我が力にひれ伏せ!」


「はいはい、もう十分伏してますって。床の下だし」


「……馬鹿な……我が……」


「え、いまそれ言う? タイミング下手か!」


 俺は笑った。笑って、ふと気づく。


 ――あれ?

 そのセリフ、通常は“敗北時”しか出ないはずだ。


 でも、戦闘してない。今は、ただ歩いてるだけだ。


「……おい、魔王」


 ノイズが走る。

 魔王の姿が一瞬だけ、ブレた。


「……ま……た……」


 音が途切れ、元のポーズに戻る。


「愚かな人間どもよ!」


「……だよね」


 俺は笑いながら、なぜか泣きそうだった。


 王様がいつもの声で告げる。


「勇者よ、魔王を倒すのじゃ!」


「はいはい、でも今日は倒さない。観光ですから」


 世界の端が歪む。

 もうそろそろループが終わる。

 リセットだ。


 視界が白くなる中で、

 俺は魔王と王様のほうを振り返った。


「なあ、次のループでも――また来るわ」


「また愚かな人間がやってきたな!」

「勇者よ、魔王を倒すのじゃ!」


 完璧なハモりだった。


 俺は笑って、光の中へ飛び込んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ