アメちゃん
まあ、会った時からアメちゃんをあげたかったので
この頃ハマってるソルティーのクッキーを食べてる姿をニコニコしながら見てる。
クロも気になるのかキッチン扉から半顔で様子を伺っている。
ガスのお兄さんは7匹の猫飼いだったのですぐにクロを籠絡していた。クロなりに吟味しているのだろう。
賃貸のファミリーマンションで鉄パイプ持って喚きながら共用廊下を走る八つ墓村お兄さんを見てるので、
一生懸命働いて社会参加して生きてる若い人は応援したくなるのだ。
親だって、あんな風する為に育てた訳じゃないだろうけど。
仕事に貪欲な若い人は見てるだけで気持ちが明るくなる。
「動画配信者ってゴープロ持って外走り回ってると思ってました。家の中で出来るんですね。」とミー子が言う。
「ちょっとイメージ古いと思います。」言いながら平間君はクッキーとコーヒーをニコニコしながら交互に食べてる。
可愛い!見てるだけで癒される。
お子さん持ってる人がつい甘やかしたくなる気持ちが良く分かる。
「いつもミー子さんて家居ますよね?人の事言えませんが。」う〜っ、とうとうこの質問がキターッ!
「え〜っと、警察を早期退社して〜ファイアーしてます。」もう散々色んな人に非難されたので語尾がどんどん小さくなる。
「へ〜っ、噂には聞いてましたが、実際やってる人は初めて見ました。って言うより、警察?そっちがビックリしますね。
1番縁遠そうなイメージなので。」
何だろう?平間君は、若いんだが、すごく年配な感じを出す。
昭和感と言うか。
今もベッドに寝そべりクッキー食べてる平間君と正座してるミー子が変なコントラストだ。
「良く言われます。おかげでそれを生かした部署に居ました。」なぜか取調室の犯人みたいな立場になる。
「生活安全課とか?」そう聞く平間君の方が年配感あるのはなぜだ?
「いや…まあ〜良いじゃないですかあ〜」とミー子の目が泳ぐ。
だんだん一方的な尋問になってきた。
ダメだ!切り返さないと!
「もっとデザイナーズとか若い人はそういうマンション選びませんか?
なんで、こんなジジババしか住んでないようなマンションを選んだんですか?」
最初から疑問だったのだ。
「…身バレがイヤなんですよ。今はネットが発達してるからバレたら本当にキツくなるんで。
ココならネットワークに取り残されてて、なのに立地は良い。安い。
エレベーター乗ってもマスクして声潜めなくても良いし。」平間君はミー子のベッドにクッキーカスをどんどん広げながら遠い目をして話す。
なんか苦労してきたようだ。
「昔の芸能人みたいですね〜この情報化社会にココは隔絶してますもんね。私もテレビに動画見れる機能が付いてたから辛うじて見てるけど。
多分ココのおじいちゃんおばあちゃんは、誰も動画知らないだろなあ〜」
廊下で井戸端会議聞いてても動画の話なんて誰もしない。
いや存在すら知らないだろう。
それより、そろそろクッキーのカスが凄いことに。
去年の夏、ミー子もお菓子のカス放置してたらアリがベッドに行進してて駆除が大変だったのだ。
「ちょっと、ごめんね〜」と言いながらコロコロで平間君の両脇スペースを掃除する。
「いやだ!襲わないで!」平間君が被害者面する。
「セクハラじゃないから!掃除しないと、9階でもアリ来るから!」コロコロで平間君を追い掛け回す。
「セクハラされてます〜助けて〜お巡りさん〜」平間君はクルクル回転しながらミー子のベッドを我が物顔で占拠してる。
だんだん楽しくなってきた。
いつの間にかクロもベッドに寝そべってた。
しかし、クロだけの特等席だった掛け布団を畳んでクッションにしてる部分まで平間君が侵入したので顔面に一撃貰って終わった。
「ふざけ過ぎだよ〜」鼻先に爪跡が綺麗に入ってる。
カットバンを貼ったが、心配になった。
「顔出るんでしょ?大丈夫?」ミー子が聞く。
「アップは初めと終わりだけだし、ワイプ小さいから平気。」と平間君が答えた。
「また話聞きますよ。」と帰って行った。
玄関扉が閉まると急に静かになる。
久々人とふざけて遊んだ気がする。楽しかった。
なんか30歳くらい若返った気持ちになる。
隣の西保さんとしっぽり月を眺めるのも良いが、こうやって若い人とキャッキャッ遊ぶのも楽しかった。
ベッドをコロコロ掃除しながら鼻歌を歌っていた。