カモ
「だいたい分かりました。それより猫がずっと鳴いてるんですが…」平間君はそちらが気になるようだ。
「あっ、そうですね。」と玄関ドアを開けたら、なぜかクロがダッシュで逃げた。
『なぜ?』と思う間もなく「ネコ〜」と言いながら平間君が玄関上がってクロを家中追い掛け出した。
『あれ?この風景に既視感がある…』
アレは去年の夏頃…
給湯器の点検を業者がしていた。
若いお兄さんの2人組で作業服にファンが付いてるが、この異常な暑さで作業服が変色してた。
大変だなあ〜と通り過ぎたが、次は我が家のようだ。
自販機でジュースを買いながら、「あっ業者の人にもあげよう」と思いついて冷たいジュースを2本買い足した。
丁度、自分家の点検してたので、「お疲れ様です〜暑いから飲んで下さい。」と手渡した。
そしたら、お兄さんが「中から猫の声するんですが、飼ってますか?」と聞かれたので、
「居ますよ〜」と玄関を今みたいに開けたら「ねこ〜」と言いながら点検のお兄さんが家の中を猫を追い掛けて走り出した。
結局、給湯器交換することなって40万飛んでいった。
確かにもう20年越えてたから換えた方が良かったんだが…40万と言うと皆「あ〜っ」と言われる…
『私ってカモかもなあ〜』と家中をクロと追いかけっこしてる平間君を見ながら思った。
「管理組合が何か隠してるかもしれませんね。
まさか役員なった杉本さんが、そんな熱心に901と909号室を監視するとは思って無かったんでしょ。」
当然のようにテーブルに座ってミー子が出したコーヒーを飲んでいる。
クロは追い掛け回されて、とうとう和室の天袋に避難した。壁にキャットウォークを付けているのだ。
賃貸だとこういう事がしにくいので猫飼いはマンション買うのが気楽だ。
それよりミー子の家は来客を全く考えてないので、アトリエにイーゼル以外置きたくないのでベッドが居間に有るのだ。
そこにカバーを掛けてクッションを並べてカウチソファぽくしてるが…どうしたってベッドだ。
そして、平間君がそこで寝そべりすっかり寛いでいる…
もっと同世代とかだとここまで異性の家で寛げないだろうが、親子年齢差だからこそのリラックス感である。
その給湯器交換のお兄さんも入るなりキッチンのテーブルでドカっと座って猫吸いをしてたし…カモられやすい体質なのかもしれない。