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母性

帰りを急ぐ自分にふと不安を覚える。

母性の浅ましさに本当に嫌気がさしてるが、自分も

変わらない気がする。

会った瞬間そのベビーフェイスに気持ちを持って行かれた。

年寄りしかいないマンションに急に生命力あふれる青年が現れたのだ。

お世話が焼きたくて仕方なくなった。

でも母親じゃない。

彼を産み育てた訳じゃない。

そのハンデを埋めたくて同衾どうきん)してしまった。

平間君を守りたい気持ちに理由が欲しかっただけじゃないの?


それは…ただの殺人鬼になった息子が返り討ちにあって血まみれなったら、お前を訴えると言ったあのバカ両親や

901号室の矢向さんみたいに、もうすっかりジジイの息子のために手押し車で薬の運び屋やって奴隷に成り下がって髪むしられて顔面殴られてる老婆と何が違うんだ?

元旦那をマヌケと思ってるが、本当のマヌケは自分じゃないか?

母性と言う脳内麻薬に操られた哀れな生き物は自分じゃないのか?

川﨑駅の雑踏の中で自分が良く分からなくなってきた。


「あら、おかえりなさい。大丈夫?真っ青よ。」

管理組合の会長と立ち話してた西保さんに声掛けられた。

珍しい組み合わせだ。

「ただいま、外歩いてたら急に気持ち悪くなって…」と言い訳する。

「じゃ、すみません。宜しくお願いします。

杉本さん一緒に上がりましょう?」会長に頭を下げて西保さんが一緒にエレベーターに乗ってくれた。

「会長と何話してたんですか?」ミー子が聞く。

「立川さんがあんな亡くなり方したから9階の役員はしばらく無しで良いんじゃないかと話してきたの。

人がいない部屋が4部屋もあるしね。」ミー子の身体を支えてくれる。

本当に良い人だ。こんな人もいるマンションにそんな台湾マフィアが潜伏してるなんて……

多分立川さんはマフィアの1員だったんだ。でも、私が元警察なの知らなかったり

矢向さん家で騒動があったりでミスったとジャッジされて消された…

「あの…立川さんって親しい人居たんですかね?」ミー子が聞く。

「ごめんなさい、私もそんなに関わりなかったし〜

家で仕事されてるみたいだったから…う〜ん、夫婦仲は良かったよね?」ミー子と同程度しか知らないようだ。

確かにミー子も2人が話したの見たの役員交代の時だけだ。

ミー子がサボったから立川さんに役員が回ってしまって、すごく嫌がってる声だけ響いてた。

じゃ、他は誰なんだ?

エレベーターを降りて曲がると「あら?大きな猫さんも待ってるのね。」と言われた。

うん?大きな猫?

いつものようにミー子の家ではクロが鳴いてて、向かいの扉もすごくわずかにスキマが開いてて…姿は見えないが。

「じゃ、私はお邪魔だから〜」と足早に西保さんは自室に入ってしまった。

警察もテープだけ張って帰ったようだ。

ミー子は、自分家を指さす。

鍵を開けたら平間君も滑り込んだ。

そのまま抱えて居間のベッドに押し倒されたが、西保さんも居るので

アトリエの和室までハイハイで逃げた。

「玄関の鍵、手も洗いたいし」と言ったが聞いてない。ボディーチェックに忙しい。

する訳無いのに!不倫だぞ!よその女の手垢の付いた男なんか、もうゴミじゃん!食べれないよ!

そこちゃんとしない人が多いから性病蔓延するんだが、私は無菌で人生終えるぞ!

性病はリンパに巣食うから、一生ついて回るんだから!

年食って身体が弱るのをずっと身体の中から監視される人生なんか嫌なんだ!

婚活アプリのせいで爆発的に増えてるんだ。マスコミは不都合なニュースは意図的に避けるんだから、自分で調べないと!

「なんで逃げんの?やましいの?」

「ちがう!ココは反転タイプだから、あっちだと今入った人が3M以内に居る状態なるの!」

「ちゃんと防音工事しないから!」

「あなたみたいな仕事じゃなきゃ、普通しないって!」

次は和室だから近くにクッションが無い!

「あ〜クソ!」上着をたくし上げて出来るだけ内側を咥える。

が足りない!勢いがスゴくて口が開く。身体が反る。

横に平間君の腕がある。

本能的に噛み付いた。

「イッターーーーーッ!」と平間君の叫び声が響いたが何とか凌げた。


「フウッー」自分で入れた緑茶が美味い。

「よく温かいもの飲めますね。」と言いながら平間君は山ほど氷入れた麦茶を飲んでる。

「僕ん家なら大丈夫だったのに。リノベでぶち抜いたからキッチンの換気口の音もライブに乗らないように開閉式にしたし。」文句を言う。

「クロが顔見ないとずっと鳴き続けるでしょ!近くに居るのに、なんで戻ってこないんだって」猫飼いや動画配信者の事情など色々ある。

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