役員
「輪番制ですから。今年は杉本さんですからね!」
突然、現在役員らしい人にマンション廊下で声を掛けられた。
できる限りヒッソリと暮らして早4年。
警察を早期退社した杉本ミー子は、憧れのファイアー生活!
悠々自適の隠居ライフを満喫していた。
趣味は油絵とミステリー書き。
小学生時代の娯楽、図書室の推理怪奇本を読み尽くし
チラシの裏にお絵描きする毎日が、また人生の落日に戻ってきたのだ。
だがしかし、一軒家にしろマンションにしろ買ったからには、回ってくるのが役員だ。
現在の人は同じ階の翻訳家らしい。
コロナのどさくさで引っ越したのでご近所へのご挨拶は割愛させていただいた。
その為、何年住んでもサッパリどんな人が住んでるのか謎である。
「杉本さんは、それでなくても前の役員候補だったのに突然病気なったとかで役員逃げてるんだから!
今年こそはちゃんとやって下さいね!」
その翻訳家らしいメガネのマダムがギロッとにらんでくる。
確か表札には「立川翻訳事務所」と書かれていたような…
嘘をついた訳では無い。
その頃本当に急に目が見えなくなって、MRIに2度もツッコまれて
うるせえ機械音を耐えたのに、原因は分からず。
医師の見解は、「深夜に携帯見過ぎたんでしょ。薬?そんなもんはありません!」だった。
なので、役員要請の紙に「原因がまだ分かりません。血栓が詰まった軽い脳梗塞かもしれません。」と書いたのだ。
断った訳じゃない!
そして結果出る1週間前に言われてた事を書いといた。
嘘もついてなければ、断りもしてないのに…
言葉なんてあやふやでいい加減なものだ。
「はい〜分かりました〜」猫のように間延びした返事をして杉本ミー子は部屋に戻った。
品川へ10分、羽田空港へは15分で行ける上に駅前は一大シャッピングゾーンである川崎だ。
便利で都心より安いのでマンション買ったのだ。
コロナで都心脱出組で一気に人口増えた街だ。
駅からマンションまでは徒歩だと20分掛かるが、なんせ平たい埋立て地なので、皆チャリで爆走してる。
ほとんどの道に自転車専用通路が設置されてるので車と同じスピードで走り抜ける。
駅からマンションまでは10分くらいだ。
大きな病院が沢山あり、緊急もたらい回しが少ないらしい。
行政施設も区役所裁判所に税務署まで徒歩10分で揃う。
我ながらいい場所に買ったなと。
心の中で自画自賛してるのだが!
役員である…これだけがネックだ。
「ニャア〜ッ!」玄関で愛猫クロが足にじゃれついてくる。
「ゴメンね〜外で恐いオバちゃんに捕まってたのよ〜
お外は恐いね〜お家が1番!」とクロとお帰りの挨拶顔面スリスリをして靴を脱いだ。
人間の言葉より顔面スリスリの方が一気に情報交換ができる。
猫はこれで大猫人間が外で誰と接触しどこへ行って何を口にしたのか?一瞬で分かるのだ。