表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/13

はたらく!奴隷様

商人ギルドは街中心部にあり、人も物も集まる場所だ。

正面の出入り口からは人がひっきりなしに出入りしている。裏手の大きな倉庫からは荷馬車や荷車がひっきりなしに出入りしている。


「リヤマ、腰の物はちゃんと入り口で預けていけよ。忘れたら事だからな。」


商人ギルドの建物内への武器等の持ち込みは厳禁だ。持ち込みが見つかれば、永久出禁。ギルド加盟店舗との取り引き禁止。

つまりはこの街での売り買いはできなくなるってことだ。


「分かってる。棒切れ1つも持ち込まないよ。」


入り口で全ての武器を預けたリヤマと共に受付を済ませる。事前に手紙で今日の取り引きの打ち合わせをしていたので、さほど待つことなく「商談室」へ通された。


「お久しぶりですねぇ。クロさん。」


そう、にこやかに挨拶してくれたのは商人ギルド、副ギルド長のフルードさんだ。


クシマ家との年一の大口取引ともなるとおエライサンが出てくる。オレが担当になってから毎年この人が対応してくれている。


商人というと、何か信用できないような、だまされているかのような胡散臭さを感じていたのだが、偏見が過ぎていたようだ。


特にこの人は目先の小銭は拾わずに、信用を第一に据え、大口の取り引きを狙い続けるタイプの商人である、とクシマ家執事のワカヤ様にいたく気に入られていた。

まぁ、そうでないと副ギルド長にはなれないよな。


「お久しぶりです。フルードさん。今日はよろしくお願いします。」


我ながら立派な挨拶が出来るようなったもんだ。成長したなぁ。


「今年の小麦の価格はどうなっていますか?当家の出来高は例年通りといったところですが。」


「いやぁ、さながら商人のようですね。クロさんは。とてもお屋敷つきの奴隷とは思えない。

普通は小麦の価格を聞いてくるなんてことはないし、領地外の小麦の出来高なんて気にもしない、というより()()()()()()()()()()なんて言葉は知らない、といったほうが正しいか。」


褒められているのかどうなのか微妙なところだなとは思いつつも、とりあえずお礼言っときゃ安牌だろ、ということで。


「ありがとうございます。変なところに興味が出てしまう性格みたいで。よく面倒くさいやつだ、とか変なやつだな、とか言われてしまいます。お恥ずかしい限りです。」


まぁ、そんな事言われたこと無いんですけどね。こう、口から出任せがスラスラと出てくるようになってしまった自分が少し恐ろしい。

人間強度が下がるから友達作らなくて、あまり人と話す機会なかったから分からなかったけど、こんな才能があったんだな。ハハハ……


「領地外も例年通りですよ。価格も落ち着いています。ご心配なく。」


それならば悩むことはなさそう。早いこと仕事を終えられそうだ。良かった良かった。リヤマのリクエストに見事に応えられるだろう。


「では、去年と同じ荷馬車10台分でお願いします。」


この世界では単位も大雑把だ。重さ(グラム)ではなく袋、荷車、荷馬車が単位になっているので明らかに少なめの袋でもパンパンに詰まった袋でも「1袋分」になってしまう。

なので荷馬車に乗せる袋数も見た目で決まるので実際は多めだったり少なめだったりする。


とは言え、乗せるだけで重さがわかる量りなんてはないので、こうするしか無いと言えばそうなる。少量の貴金属なんかをはかる天秤はあるけど。


「わかりました。それでは、これも例年通り、証書を10枚切らせてもらいますね。」


証書を切るというのは大口取引で行われる分割払いみたいなもので、ギルドの倉庫にも限りがあるので取り引きした分量を運び込んでしまったら、倉庫がいっぱいになってしまう、そもそも入り切らない、なんて時に使われる手法である。


この場合、証書10枚なので、実際の小麦と金銭の受け渡しを10回に分けて行う、ということになる。もちろん、受け渡し期日や方法に何かしらの条件を付けたければここで交渉となり、証書に記載される。


では、取り引きで1番重要である「証明」はどうするのか?この証書が間違いなく正式に取引されたものである、つまり偽造ではない「本物」である証明を何でするのか?


魔法です。この世界には魔法という便利な物があるのです。この世界に転生して1番驚いたのは魔法の応用力というか便利さ。本当に様々なものに使われている。これだけは現世も勝てない素晴らしさだ。


具体的には正式な契約書に契約者双方が署名をし、そこに契約魔法をほどこす。

契約魔法がかかった契約書は破れにくく、濡れたり、燃えたりもし難いという素晴らしい特性を身につけ、さらに正式な契約者同士がその契約書に触れるとピカピカと発光するという偽物見破り装置まで付くという優れものである。


契約が無事施行、または合意の上の破棄、等が行われると魔法の効力が切れ、普通の紙に戻る。


しかし、代理人など、不測の事態に備えた条件などを事前に契約書に盛り込んでおかないととても面倒なことになるというデメリットはあるものの、こと商取引においては偽証や盗難などがほとんど無理になるというのは、とてつもなく大きなメリットだ。


事前にやり取りしていたおかげか証書は用意してあったらしく、証書に軽く目を通し、サインをして無事契約成立と相成った。


簡易証書(契約書預かり票みたいなもの)を受け取り、これにてお仕事終了。あとはお昼御飯を食べてお屋敷に帰るだけとなった。


「ところで、クロさんは奴隷から一般自由人になる気はありますかな?」

「ふへっ?」


唐突な話に思わず変な声がでてしまった。いきなり何を言い出すんだこの人は。


「クロさんはとても奴隷とは思えない知識と素晴らしい好奇心をお持ちだ。それはまさに優秀な商人に必要不可欠なもの。クロさんがその気であれば、我が商人ギルドでの身請けも考えております。ぜひご一考ください。」


「ハハハ。前向きに検討させていただきます。それではこれにて御暇させていただきます。今日はありがとうこざいました。」


不意打ち気味のお誘いに、心臓バクバクにさせながらこれだけスマートな返事を出来たのは我ながら感心してしまった。前世での愛読書のおかげだな。


その後、正面出入り口までお見送りしてくれたフルードさんに改めてお礼をし、ギルドに預けていたリヤマの装備品を受け取り商人ギルドをあとにした。


さて、気を取り直して、お楽しみのお昼ご飯と行きましょうかね。半日近く歩いて商談して、おなかペッコペコだおう。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ