サンタ見習いと勇者の孫と魔王子の城
冬の童話祭2025応募作です。
テーマ「冒険にでかけよう」
『——こうして、魔王は城に帰り世界に平和が訪れました。めでたしめでたし』
この国に伝わる『勇者の書』。
じいちゃんが守った世界は今も平和だ。
魔界に、サンタがプレゼントを届けに行くくらい。
◇
「わぁ! 見てください! 絶景です!」
目の前には赤い月。トナカイ隊が間一髪かわすと、ソリがぐわんと揺れた。ぼくは落ちそうになるプレゼントと、だぼだぼの真っ赤なコートを着たサンタ見習いの背中を力の限り握った。
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勇者のお孫さんへ
今夜、魔界にプレゼントを届けにいきます。
一緒についてきてもらえませんか?
サンタ見習いより
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こんな手紙をもらったのは初めてだった。
直前に言うなよなんて思いながら、夜が待ち遠しかった。『勇者の孫』は世界が平和なら何者でもなかったから。
◇
ぼくらは城のえんとつから中へ入った。
れんが造りの壁はどこもそっくり。
ろうそくを灯して一歩ずつ進む。
「ウロボロスの赤ちゃんには、かみかみ歯がため」
「仲良しケルベロスには、おそろいマフラー」
「オシャレなメデューサには、フルリムめがね」
サンタ見習いはメモを見ながら枕元にそっとプレゼントを置いた。
◇
一番奥の部屋からは明かりがもれていた。
あせったサンタ見習いは廊下の鎧につまずく。
「だれ?」
ばさっと羽ばたく音が近づいてきた。
とっさにサンタ見習いに鎧を着せる。
魔王子の黒い羽根が一枚、ぼくの肩におちた。
「やあ、ぼくはテオ。こっちは……」
サンタ見習いは鎧に似合う低い声を出した。
「ニコです」
「眠れないなら一緒に遊ぶ?」
「……うん!」
ぼくらはあやしすぎたけど、魔王子は誘いにのった。
「ボクはルカ!」
名のりと同時に口から出た炎で『火の輪くぐり』。
東の塔から西の塔への『綱渡り』。
城全体を使った『おいかけっこ』。
城内がさわがしくなり、つぎつぎに魔物が起きた。
ぼくはニコの手を引いて走った。
この光景を見せたくて。
「あうあう」
ウロボロスの赤ちゃんが王冠型の歯がためを夢中になって噛んでいた。
ニコは鎧の中からその様子を見つめていた。
時間が止まったみたいに美しい朝だった。
◇
目をこするルカをベッドに寝かせる。
「テオ、ニコ、楽しい夜をプレゼントしてくれてありがとう」
「また会いにくるよ」
「おやすみなさい」
◇
祝福の鈴を鳴らすトナカイ隊と白銀の空を帰る。
「ぼく『夢』ができた。自分の足で会いたい人に会いに行く。『世界』と出会う旅に出たい」
「僕の村にも来てくれますか?」
「もちろん!」
◇
新しい朝。
ぼくは靴紐をきゅっと結んでリュックを背負い、黒い羽根を一枚帽子にさす。
「冒険に、いってきます」
お読みいただきありがとうございます。
素敵な一日をお過ごしください。
今年も冬の童話祭楽しみます!
毎年童話にふれるあたたかい機会をありがとうございます!
【2025.2.26追記】
『【第334回】2025.2.21OA下野紘・巽悠衣子の小説家になろうラジオ』
「冬の童話祭2025なろラジリーディングシアター」にて声優の下野紘さんと巽悠衣子さんに演じていただきました。
読んでくださった皆さま、星やリアクション、ご感想やイチオシレビューにて応援してくださった皆さまのご声援が拙作を冒険へ導いてくださり、宝物のご縁を結んでくださいました!
心より感謝申し上げます!!
2025年2月24日作成の活動報告に、詳細やリンクがございます。
そちらもぜひご覧くださいませ☆彡