揺らぎ(16)
玄関を開けると既に賑やかな声がしていた。
「じいちゃん、また鮭フレークばっかりじゃん。」
カナタの声がしている。
「今回はおかず味噌も買ってきた。じいちゃん、今はこっちにはまってるから。」
お父さんがやたら楽しそうに話しているのも玄関まで響いていて、玄関にはジュンタさんが出迎えてくれていた。
「いらっしゃい、イチハちゃん。あと、マサキくんで良かったよね?この前は本当に助かりました。ありがとう。」
ふんわりと柔かな笑顔で私達を見ている。
「今日は僕も迎えていただいてありがとうございます。」
マサキさんは礼儀正しく一礼をし、笑顔でそう言った。
リビングからパタパタと走って来た母が、
「賑やかですみません。イチハの母です。イチハ、寒いから早く入ってもらって。」
にこやかに対応してくれた。
リビングに行くと急いで端っこに荷物が寄せられていて、ひとまず母が父が広げたお土産や食材を何とかした後が見える。
おそらく少しだけ母が注意したのか父が端っこに食材とカナタと座っていた。
「お父さん、イチハの彼氏。早く立って挨拶して。」
母がそう言うと、父がカナタにも立つように促し、
「私がイチハの父です。」
と、お辞儀をした。
父は隣のカナタにも挨拶しろと言わんばかりに肘でカナタをつついている。
「じいちゃん、僕、もう会ってるから…。カナタです。」
チラチラ父が見ているため、仕方なくカナタが挨拶をする。
父の悪いところが目立つなか母が少しだけ父を見た。
「…イチハ、お父さん、緊張しちゃって。」
父が少しおとなしくなった。
姉の時も何となく父が落ち着かず、母がピリピリしていたのを思い出した。
「一旦、お茶にしませんか?」
ジュンタさんが場に割ってはいる感じで空気が和んだ。
マサキさんを席に着かせ、父と母がその前に座り、私はキッチンにいるジュンタさんに焼き菓子の箱を渡した。
急いでマサキさんの隣に座った。
「イチハさんとお付き合いをさせていただいております、隅田マサキです。よろしくお願いいたします。」
再度、マサキさんは一度席を立って頭を下げた。
私もあわてて隣に立つ。
「改まらなくて良いですよ。私もお母さんから聞いているので。座って気軽に…って言ってもなかなかだと思いますが、かしこまらずにでお願いします。」
父が少し真面目に、そして穏やかに彼を見ていた。
ジュンタさんがテーブルにコーヒーと焼き菓子を持って来て優しい声で“どうぞ。”と、1度私の目を見て笑った。
その時、私はひどく胸を鷲掴みされるくらい痛みと切なさが湧いた。
1度私はお手洗いと言いながら席をたった。
「…イチハ?」
ソファに座っていたカナタが私に声をかけたが、振り向かずリビングを出た。




