揺らぎ(15)
「イチハ、準備してて。洗い物は僕がするから。」
次の日の朝、バタバタと準備する。
結局、今日と明日姉の家にいくが泊まらずに訪ねることになった。
私はメイクと髪を少し巻いて纏めた。
ラフな格好でも良いかと思ったけれど、少しだけワンピースできちんと感を出した。
「これ、イチハに。」
彼が不意に私の後ろに立ち、ふわりと私を包んだかと思うと首の後ろで金具を留める音がした。
「指輪とかにしようかと思ったんだけど、サイズ分かんなくて。昨日、渡そうと思ってたんだけど渡しそびれちゃって…。出会って1年…カタチにしたかったから。渡す前に一緒に住もうとか言って、なんとなく困らせてしまったからね。それでも、出会ってくれてありがとう。」
彼は私を後ろから抱きしめたまま、そう伝えてくれた。
私は突然のプレゼントに驚きながら、それでも彼の気持ちが嬉しくて、身体を反転させて彼の背中に腕を回した。
「びっくりした。大切にするね。私もマサキさんに会えて良かった。」
そう言った。
気持ちが揺らいでいてもこの気持ちは本当で、彼に会って大事にしてもらえて、愛情を注がれて、幸せだと思える。
そして、ちゃんとその気持ちに答えたいと思う気持ちもある。
「そろそろ、出ようか?」
彼はコートを羽織り、私の手を握った。
コロンとした雫のカタチをしたネックレス。
雫の中には私の誕生石のトルマリンがある。
かわいらしいピンク色の石。
潔白とか希望なんかの意味がある。
そう思うとチクリと胸が痛い感じがする。
姉の家に向かう途中にあるパティスリーに寄って、焼き菓子を買った。
去年はケーキが入らないくらい冷蔵庫がパンパンだったと思い出して少し笑った。
「どうしたの?」
彼は私が笑顔になった理由を尋ねた。
「去年、私の両親が色々持って来てて冷蔵庫がパンパンだったからケーキ買ったんだけど困ったって思ったなぁって。今年もたぶんそうなんだろうなって。」
私がそう答えると、
「イチハのお父さんやお母さんは優しい人なんだろうね。」
彼はそう言いながら焼き菓子の入った袋を持って、また歩き出した。
私の歩幅を気にしながら、私を時々見て微笑んでいる。
「2人とも優しいですよ。」
私は彼の手をしっかり握る。
離さないでしっかり揺らがないでと自分に何度も繰り返し言い聞かせる。
彼のまっすぐな背筋をガラス越しに見つめながら、彼のとなりに映る自分を見る。
彼と初めて2人で会った時よりも彼の隣にいることが不自然ではないことに安心する。
少しだけ背筋を伸ばして私は歩いた。
「…緊張してきた。」
マンションのエントランスに入った瞬間、彼は一言溢したが、すぐに優しい顔で私を見つめた。




