揺らぎ(14)
キッチンでスープを作ろうと野菜とベーコンを冷蔵庫から出した。
静かな部屋にぎこちない包丁の音がする。
何をしても不器用だなと自分でも思う。
前よりはかなりマシになったけれど、姉のように小気味良い包丁の音は出せない。
トン、トンとゆっくり動かしていく。
以前は力が入りすぎてダン、ダンと派手な音がしていたと思う。
カナタやジュンタさんに美味しいと言って貰いたくて頑張った。
そのうちマサキさんに喜んで貰いたくて頑張るようになった。
苦手なのは変わらずだけど、喜んで欲しいと思って進んで料理をした。
「おはよう。美味しそうな匂いがする。」
ゆるゆると彼が私に近づいて、私の後ろに立ってお腹に腕を回す。
彼は私を手伝うと言って、食器や飲み物を準備する。
もし、こんな感じでずっと彼と一緒にいれたら本当に幸せなんだと思う。
彼の優しい愛情は常に私に向けられていて、それに答えたいと思う。
それでも、決めれない自分が歯がゆい。
午前中は片付けや掃除を一緒にして、午後は少しだけお互いに仕事をしたり、2人でコーヒーを飲んで休憩したり、時々キスをしたりして過ごした。
「明日、お父さん達にはマサキさんが来ること伝えたよ。ジュンタさんもこの前のお礼も兼ねて泊まりにおいでってことだけど…。」
私はマサキさんに尋ねた。
「構わないけど…人数多いと迷惑だろうし。距離も近いから夜こっちに帰って来よう。また、次の日通う感じになるけど…。」
彼は更に、
「カナタくんは僕のこと苦手かなって…。まぁ、僕じゃなくても、イチハの彼がイヤだと思うんだよ。いつかそれはクリア出来ればと思う。ちょっとずつね?」
彼は私の顔を見てニコッと笑った。
“それは…”と言う私の言葉に被せるようにキスをして口を塞いだ。
触れるだけの短いキスのあと、
「緊張するけど、楽しみだね。」
彼は私の顔を見て優しく笑った。
頭では彼と一緒にこのまま暮らして、そのうち子供とかも出来て家族になるのが、理想なんだとわかっている。
彼はきっとこの先も変わらず大事にしてくれるんだろうと漠然と思う。
変わらないとは限らないけれど、信じることの出来る愛情を与えてくれる。
それでもその選択を不安に思ってしまうのは、自信がないからなんだろうか。
彼を好きな気持ちはちゃんとある。
それでも彼の気持ちに追いつくことが出来ているのかわからない。
計ることの出来ないものだと前々からわかっていても、不安でそんなことばかり考えてしまう。
姉だったらきっと自分の気持ちに素直に行動するのだろうと、また比べて情けなくなる。
そもそも、姉なら最初から自分の気持ちから逃げないのだろうと思った。




