揺らぎ(12)
仕事納めの日は緩やかに過ぎ、年明けの準備とデスク回りの掃除、お客様に進捗等を伺いながら漏れがないように何度も確認する。
「お疲れ様でした。良いお年を。」
口々にスタッフが言い、休みにはいる。
マサキさんが近くまで迎えに来てくれていたので、一緒に私の家に帰った。
スーパーで買い物をして、何が食べたいとか、これ新しい商品だねとか、一通り店内で買いたいものをかごに入れて清算をする。
彼は荷物を持ってくれて、変わらず手を繋ぐ。
当たり前のように馴染んでいく行動に安心する。
「イチハ、一緒に住もうか。」
突然、マサキさんに提案された。
もうすぐ私の家に着く前で本当に不意だった。
私がどうしたら良いか、どう答えたら良いのか反応出来ずにいたら、
「直ぐじゃなくて良いよ。僕はずっと一緒にいたいと思っていて、ちゃんと先を見てることを知っていて欲しいなって。」
彼は少し淋しそうな恥ずかしそうな複雑な顔をしていて、それでも穏やかな声で話してくれている。
彼の優しさに甘えてばかりだ。
私は彼に抱きついた。
外でそんなことはしたことはない。
それでも私の気持ちを伝える言葉が思い浮かばない。
「イチハ?どうしたの。」
彼は私の背中をポンポンと軽く叩きながら、ゆらゆら揺れていた。
本当に穏やかな優しい人。
「家、もうすぐだよ。寒いから帰ろう。」
彼は少し強めにギュッと私を1度抱きしめて、また歩き始める。
私が不安にならないように、落ち込まないように、罪悪感を持たないように、彼は優しく明るく接してくれた。
部屋に入ってからも彼はいつものように私の側にいてくれる。
「嬉しかったよ。私も一緒にいたい。でも、私で良いのかなぁ…。いつもマサキさんに迷惑かけてるし。」
私は彼の肩に頭をのせて悩みながら、自分の気持ちに当てはまる言葉を探す。
「迷惑かけられた事は思いつかない。それにかけられてもいいよ。イチハがイヤじゃなきゃ、もう少し甘えて欲しい。抱えないで、頑張りすぎないで、せめて僕の前では。あとは、少しやきもちとかもあるよ。一応、お姉さんの事は聞いていたけどね、カナタくんやお姉さんの旦那さんですら、僕はやきもち焼く対象になるんだよ。僕はまだイチハと出会って一年だから。それまでのイチハを知らないからね。少しでも僕の事をたくさん知って欲しいし、イチハの事を知りたい。…まぁ、情けないけど独占欲がここまで強いと思ってなかった。」
彼はそう言って、彼自身に
私の頭を寄せて撫でた。
「いつも落ち着いているように見えてるから…ちゃんと考えるね。ちゃんとマサキさんが好きだから。」
私は彼の胸に顔を埋めた。
「今日は焦らず、好きって聞いたし、この話しはまたで。ご飯作ろう。」
彼はソファから立ち上がり、私の手を引いた。
本当に優しくて穏やかでそこにいたいと願った。
ただ、微かな不安と奥に締まった気持ちが後ろめたさになって、素直に動けないと自覚している。
こんなに彼を好きでも隙間が埋まりきらない。




