揺らぎ(7)
画面を見るとカナタからだった。
「どうしたの?」
私が電話に出ると、
「イチハ、助けて。父さんが熱が凄くて動けなくて、どうしよう。どうしたらいい?」
泣きそうな声で私にカナタは訴えていた。
カナタはしっかりしていてもまだ12歳の子供だ。
しかもまわりの体調にはかなり敏感になっていた。
きっと姉の事もあってだと思う。
「カナタ、今からそっちに行くね。保険証とかある場所分かる?とにかく行くね。大丈夫だからね。」
私は急いで服を整えてタクシーを呼ぶ。
マサキさんに状況を伝えると、一緒について行くと言われた。
タクシーの中で再度カナタから連絡があり、保険証はジュンタさんの財布の中にあること、不安で仕方ないことが伝えられた。
私は電話を繋いだまま、カナタに大丈夫と言い続けた。
私も不安でマサキさんの手をずっと握っていた。
そんな私の手を彼はしっかり握り返した。
姉の家に着くとタクシーに少し待っていて欲しいことと、今から病院に行くことを伝え、マンションに入る。
リビングのソファにだらしなくもたれ掛かったジュンタさんがいた。
オロオロしているカナタを落ち着かせる。
「立てますか?支えますね。」
とマサキさんはジュンタさんを支えて立ち上がる。
私はジュンタさんの財布やコートを持ち、カナタを連れてタクシーに乗り込む。
私が助手席に座り、救急がある病院に行ってもらうように運転手の方に伝えた。
後ろを振り向くと肩で息をするジュンタさんがつらそうで、その横のカナタは泣きそうな顔をずっとしていた。
ずっと私はカナタに大丈夫と言っていた。
救急入り口に着き、私が支払いをしている間にマサキさんがジュンタさんを再び支えてタクシーから降りていた。
受付に向かい、問診をジュンタさんやカナタに聞きながら私は記入していく。
看護師さんから体温計を受け取り、ジュンタさんに渡して計ってもらうように促した。
高熱だったため、別室にジュンタさんが連れていかれた。
「カナタ、ご飯とかは食べたの?」
私はカナタに尋ねた。
「父さんが準備するって言ってたんだけど、帰って来てからしんどそうだったから、ソファに座っちゃったままぐったりしてて…。父さんが大丈夫とか言ってたんだけど、だんだんつらそうになってて、どうして言いかわからなくて、じいちゃんたちも遠いし、連絡しちゃいけないと思って…だから、最初は薬とか探したんだけどなくて、とりあえず熱計ったら凄くあって…。わからなくなって、救急車呼ぶか父さんに聞いたんだけど…寝たら大丈夫だって言うし…なんか…俺、不安で…イチハに電話した…。」
泣きそうに言葉につまりながら、カナタは一生懸命に話をした。
「頑張ったね。偉かった。カナタ、ご飯食べた?」
私がカナタの手をしっかり握り再び聞いたら、頭を横に振り、“食べてない…。”と小さい声をこぼす。
「わかった。今から一緒に買いに行こう。ジュンタさんは少し検査とかで時間かかるから、大丈夫だから行こう。」
私は動かないカナタを押しながら歩かせる。
皆で一旦外に出て、近くのコンビニでおにぎりやパン、飲み物を少し多めに買い、あとゼリーなどの食べやすそうなものと一緒に支払いを済ませ、また病院に戻る。
とぼとぼと力無く歩くカナタを見て、やはりまだ子供だと思った。
そのカナタがどんなに不安だったのかと思うと、繋いだ手を離せなかった。




