融解の方法(8)
年越しをしてその日は姉の家に泊まり、年が明けた。
「イチハちゃん、寝れなかった?」
私はリビングのソファにブランケットにくるまり、ボーッと窓の外を見ていた。
まだ薄暗く、時計を見ると5時前だった。
両親と和室で寝ていたが眠れず、リビングに移動してスマホで動画を見ていたが、それも飽きて今にいたる。
ジュンタさんは父とお酒を飲みすぎて、喉が渇きリビングに来たようだった。
「早く目が覚めてしまっただけですよ。」
私はそう答えた。
「僕は喉が渇いてしまって。お茶入れるね。」
ポットに水を入れてスイッチを彼は押した。
マグカップを2つ取り出し、ハーブティーのティーパックを入れた。
「このハーブティー、シオリさんが好きでよく飲んでたヤツなんだよね。」
そう言いながら、お湯をカップに注いだ。
嬉しそうにそう話す彼を私は少しだけ苦しい気持ちで見つめる。
それでも彼は姉の話を愛おしい顔をしながら続ける。
私だって姉が好きだとわかっていても、姉が羨ましくて仕方がない。
「ジュンタさんは今でも姉が大好きなんですね。」
私はうつ向いて呟いた。
「…今でもシオリさんを愛しているよ。これからも気持ちは変わらないと思う。」
彼には姉だけだと確認した。
はじめから頭ではこの気持ちが救いがない事は理解している。
でも、心の奥で思い続ける事を大事にしたいと思っていた。
その気持ちが揺らいでいて、手放したくないと想いながら、諦めるしかないと苦しんだ。
自然と涙が出てきた。
今泣くのは違うと思いながらも、涙が溢れて止まらなかった。
「イチハちゃん、大丈夫?」
彼は泣いている私に気が付き、側に駆け寄った。
心配そうに私を見つめ、どう言葉をかけていいのか困っている様子を見てもなお、私は涙が止まらず自分でもどうしたいのか分からなくなった。
私自身、私をもて余して気持ちが追い詰められる。
「シオリさんの事を思い出したの?」
彼は的はずれながら何とか私を落ち着かせようと、泣いている理由を探ろうとしている。
少しでも泣き止ませようと焦っている彼を見ていたら、やはり愛しくてまた泣いた。
「…そうですね。お姉ちゃんの事私も大好きですよ。」
私はうつむきブランケットに顔を埋めて、小さくそう呟いた。
私の丸まった背中に彼の手が添えられる。
近くに座り込みゆっくり子供を寝付かせるように、彼は私の背中をさすった。
切なくて、嬉しくて、恥ずかしい気持ちでいたたまれず、顔をしばらく埋めた。
背中の手の温かさが幸福で苦しかった。
私は浅ましいと思った。
苦しい気持ちも背中の幸福で簡単に埋められてしまう。
私は本当に彼が好きなのだと痛感した。




