融解の方法(7)
リビングに入ると、両親がバタバタと荷物を広げて整理していた。
実家から食材や来る途中で買ったお土産を楽しそうに父が分け、母が早くしようと急かしていた。
「この鮭フレーク美味しいから。たくさん持ってきたよ。」
ニコニコしながら父はカナタに話しかける。
“多いよ…。”と苦笑しながら父の相手をしている。
この鮭フレーク、おにぎり作った時に中に入れたのだと少しだけ懐かしくなった。
不恰好なおにぎりだったけど、ジュンタさんは嬉しそうに頬張ってくれていたことを思い出す。
何て事はない出来事ですら、彼と結びつけて気持ちが跳ねる。
「イチハ、ケーキ冷蔵庫に入れなくて良いの?」
カナタが私に話しかける。
急いで冷蔵庫に入れようとしたら、両親が持ってきたり買ったであろう食材でいっぱいになっていた。
「入らないね。お茶にしようか。」
ジュンタさんが私の背後でそう言って、コーヒーを入れる準備を始めた。
リビングにコーヒーの香りが広がる。
お湯を優しく注ぐ彼の横顔を視界の端に感じながら、お皿とフォークを準備する。
湯気で少し曇る眼鏡を気にしながらカップにコーヒーを移し、“どうぞ。“と彼は小さく言ってテーブルに運ぶ。
ただ、それだけでも愛おしく思ってしまう。
同時に切なくて苦しい。
この空間で私だけが異質な気がして、微かな罪悪感が生まれた。
家族として大事に大切に育ててきたこの空間に、私は違う感情を抱えて入り込んでしまった。
姉の事をここにいる全員が大切に思っていて、姉の作った繋がりを大事にしている。
それは私も同じ。
姉を大事に思い、今も姉の影響が強い。
けれど、彼に惹かれたのは姉の影響ではない。
姉が彼を選ばなかったら出会えてはいないのは確かだけれど、彼の優しさと一途な気持ちに触れて気持ちが震えた。
姉を大事に思っている彼を私は好きになってしまった。
本当に面倒な感情だとつくづく思う。
踏み込まなければ、この感情を知られなければ、この中に受け入れて貰えるのだろうか。
願っても感情のコントロールなど出来るわけではないのに、はみ出ないようにしっかり冷静なフリをする。
「イチハ、早く座って。」
カナタの声に現実の輪郭がハッキリする。
テーブルについて、たわいのない話をみんなでする。
同じ話を繰り返しする父にそれを小さくため息をつきながら温かく見守る母、その話をしっかり小さく頷きながら話を聞くジュンタさん、時々話に突っ込むカナタ。
私はそこに入れるように必死に笑顔を作る。
「イチハ、顔不細工。疲れてる?」
カナタは私の痛いところを目ざとく突いてくる。
それでもその言葉が決して冷たいと感じたことはない。
彼は私をよく見ていて心配してくれている。
けれど、私の気持ちには決して気づかないでと、
「….忙しかったからね。」
私は誤魔化した。




