隣の芝生(3)
カナタくんはかなり落ち着いて玄関から帰って来ていたがジュンタさんは、
「カナタ、ユウトくんと遊べなくなったらごめん…。」
と焦っていた。
「勝手に遊ぶし、仲直りもするもんねぇ。」
と可愛く頭を横に倒して私をチラッと見る。
「カナタくんは謝れる良い子だもんねぇ。」
と、私もカナタくんを見ながら頭を横に倒して笑った。
結局、そのあと姉が帰るまでかなり悩んでいたが、
「ジュンタ、よく言ってくれた。全く、腹立つ!」
と姉の一言で全てが片付いた。
姉はカナタくんのそばに行き、
「どんなに嫌でも手を出したら、手を出した方が悪くなるんだよ。ちゃんとイヤならイヤって言えるように頑張ろうね。謝れたのは偉かった。」
と、姉もしっかりカナタくんの視線まで降りて、話をしていた。
ちゃんと母親なんだと思った。
もちろん、いろんな人がいるから思うのは勝手だが、姉やジュンタさんがちゃんとしているのを見てから文句があるなら言って欲しいと思った。
私が少しその事が顔に出ていたのがわかったのか
「イチハ、ありがとうね。わかる人がちゃんとわかってれば良いよ。言いたい人は言わせとけばいい。そんな人に時間使うのは勿体ないからね。」
と、姉は私の頭をガシガシ撫でて、すぐに夕飯の支度を始める。
姉にして見れば一日の限られた時間を仕事や家族に費やしたいのだと思う。
私はやっぱり姉が大好きだとつくづく思った。
姉の手伝いをしながら姉に高いテンションで絡む。
「包丁持ってはしゃがないで、手伝いするなら気をつけて、手を切らないでね。」
と、姉は私をまだまだ子供だと思っている。
それも私は幸せだった。
おそらく姉はちゃんとジュンタさんとカナタくんと家族になる覚悟をしていたのだと思う。
私は大学3年になり、就活で進路に迷った。
高校生では将来が決めれず、何となく文学部に進んだ。
元々、姉の住んでいる街から通える大学を漠然と選んだ。
将来の夢が思いつかず、国語の点数がわりと取れているからそれで良いかなぐらいで決めてしまった。
大学生になってから決めれば良いと思ったが、未だにどんな仕事が出来るのか、あるいはしたいのかわからなかった。
「お姉ちゃんは何で今の仕事をしてるの?」
私は姉に尋ねた。
「今の仕事は一回転職してからだけど…。元々営業が好きって言うのもあるかな。働きたくてもなかなか今はいろんな事情で難しい人もいるからね。結婚して旦那さんの転勤先で就活が大変だったり、子育てで一度リタイアしなくちゃいけなくなったりして、復職が難しくなったりとかね。もちろん、他な理由もあるけど。企業とその人とをサポートするのは両者の問題が解決する事だし、やっぱり仕事が決まって喜んでくださるスタッフの方を見るのが好きかな?まぁ、それなりに苦労はするけどね。」
姉は楽しそうに話す。
元々世話好きなイメージがある。
父も母も働いていたので、私は姉によく世話を焼かれていた。
小学校に上がる頃には大学で家を出ていたが、それまではご飯やお風呂等はもちろん、遊んでくれたり保育園の行事もわりと参加してくれていた。
「人が喜ぶ事がお姉ちゃんは本当に好きなんだね。」
楽しそうにしている姉が私は好きだ。