融解の方法(2)
年末には父や母が姉の家に泊まりに来ることになっていた。
私の両親と本当に快く交流を続けてくれている。
「イチハちゃんは年末年始は休み?」
ジュンタさんが話しかける。
「30日から休みで4日から仕事です。父や母は31日にこっちに来るんですよね。」
私は晩ごはんの準備をしながら答える。
「今日はお鍋なんだね。」
ジュンタさんが私の肩越しに料理を覗いた。
あまりの距離の近さに緊張をして固まってしまった。
「いい匂いだね。楽しみ。」
彼は鼻をならしながら匂いを嗅いだ。
きっと私の動揺など気がつきもしないのだろう。
「…食器とか出してもらって良いですか?」
何とか距離をもちたくて、ジュンタさんにお願いをすると、“了解。”と小さく答えて、私から離れた。
「父さん、手を洗ってからだよ。あと、着替えないとスーツ汚れるから。」
カナタはジュンタさんにそう言って、食器を出し始めた。
彼はスーツを着替えに行き、洗面所に向かった。
リビングに眼鏡をかけ、リラックスモードで戻って来た頃には、カナタが既に食器を出し終えていた。
お鍋を卓上コンロの上に乗せるため移動させようとしていたら、
「持っていくよ。」
と、私が持っていた鍋つかみを取り上げ、ジュンタさんが鍋を運んだ。
「イチハ、早く食べよ。」
カナタがいつものようにとなりに座るように私の座る椅子をテーブルから引いて待っている。
焦りながらテーブルにつくと、
「いただきます。」
と、笑顔で手を合わせるジュンタさんが目に入る。
さっき微かに触れた指先が幸せと切なさを感じさせた。
美味しいと頬張る笑顔も、時々湯気でくもる眼鏡を拭く仕草も、器を持つ手に未だに大切に付けられた指輪も、私には遠く感じられる。
決して踏み込んではいけない。
それでも愛おしい。
「うまっ。イチハちゃん、美味しい。」
ジュンタさんが私に話しかける。
「鍋なんて切って入れるだけだし、スープも買って来たヤツだし。ウマイの当たり前だろ。」
カナタは少し不機嫌そうにご飯を頬張る。
「でも、美味しいだろ?」
ジュンタさんがカナタに問いかけると、“まぁ、ウマイけど…。”と小さく答えた。
ジュンタさんが私の方を見て笑いかけた。
そんなに当たり前に見られることが嬉しくてツラい。
私の気持ちと彼の気持ちには距離がありすぎて、気持ちをもて余してしまう。
この気持ちがいつか麻痺して動揺しないくらい、普通になればいい。
私の中でこれ以上この気持ちが育たないように、そう思っていても、その笑顔も仕草も養分になり育っていく。
距離をとることすら今の私には怖くて出来ない。
「切って入れるだけだけど、美味しい。」
私は少しだけトゲのある言い方をしてしまった。
もどかしくて、醜い。




