連理の枝(8)
その日以来、私は休みの日は夕方に姉の家にまた行くようになった。
カナタに会うのも楽しかったが、ジュンタさんと姉の話をする事が嬉しかった。
相変わらず、ご飯はハンバーグ以外はうまく作れていないけれど、以前よりはマシになっているとカナタが言っていた。
「お姉ちゃん、昔はゴリゴリのアイドルオタクでいつもコンサートのDVDを実家で観させられてて、私も何回も見てるから曲も覚えて2人で歌ってましたよ。社会人になってからは仕事人間って感じで、面影はあんまりないかもですけど、たぶん実家にはグッズとか残ってますよ。」
私は姉の話をする。
きっとジュンタさんが知らない姉だと思っていたが、
「そう言えば僕にはあまり言わなかったけど、ひそかに推し活やってた。時々、ファンクラブの通知がスマホに来てたし、ドラマの配信をこっそり病院で見てたしね。でも、僕に気付かれないようにしていたと思う。かわいいよね。」
彼はその姉を知っていてかわいいとのろけた。
「確かに仕事はバリバリ出来るのに、誤魔化しきれてないところが本当に愛おしくて、見てて飽きなかった。」
幸せそうに話すジュンタさんがかわいらしく見えた。
色素の薄い瞳を大きく見開いて、姉の話をするときには前のめりで彼は話した。
「シオリさん、家事してるときも鼻歌が推しの曲だしね。隠そうとしてるのにただ漏れしてるし。」
本当に楽しく話がつきなかった。
「お姉ちゃん、やっぱり変わらなかったんですね。」
ジュンタさんが楽しそうで良かった。
「父さん、お風呂上がったよ。」
カナタがリビングに戻ってくる。
それが合図で私が帰宅の準備をする。
「イチハ、気をつけて帰れよ。」
カナタは自分の部屋に行く前に冷蔵庫から水をだし、コップに入れて飲み干した。
「カナタもゆっくり休んでね。おやすみ。」
私がそう言うと、小さく“まだ、寝ないし。”と言って部屋に入った。
「イチハちゃん、送ってくるね。カナタ、何かいるものある?」
ジュンタさんがカナタの部屋に向かって話しかける。
「食パンなかったし、牛乳少なかったよ。あと、プリン食べたい。」
と部屋から声が聞こえた。
私はジュンタさんと帰宅のため外に出た。
すっかり湿度の高い夏の匂いがしている。
「いつも送ってもらわなくて大丈夫ですよ。カナタも心配ですし、ジュンタさんも疲れているでしょうから。」
私はジュンタさんに伝えた。
仕事終わりに疲れているのに本当に申し訳ないと思っていた。
「イチハちゃんに何かあったらシオリさんに申し訳ないしね。それにイチハちゃんも疲れているのに休みにうちに来てくれてるでしょ。」
前を向いて、私の歩幅にあわせて歩いてくれている。
「それに、イチハちゃんは女の子だからね。」
不意に彼は私の顔を覗き込んだ。
あまりに急な笑顔に少しだけ動揺した。
「…気を遣ってもらってありがとうございます。」
少しだけ反応が遅れてしまった。
彼は“いえ、いえ。”と軽く首を振り、また前を向いた。




