ガウンを着た女神
退院後、リングの上で写真を撮ることにした。セレスティアは死んだと思っているファンにとっては、彼女の最後の記憶が、リング上で倒れてしまった姿というのは、あまりにも悲しすぎる。そこで、せめて、ファンには自分の笑顔を最後の記憶としてとどめてほしい、と思ったからだ。写真は後日、撮影日不明の写真として公開することになっている。それが、彼女のせめてもの、今まで応援してくれた人への、心遣いだった。
セレスティアは久しぶりにファイティング・コスチュームの白い水着を着て、鏡に立った。
「私、こんなにがんばってきたんだ…」
クイーン・ヴィクトリアとの試合に着ていたものだ。今まで、よく闘い抜いてきたものだ。今までの様々なリングの思い出がよみがえる。楽しかったことも苦しかったことも、全てがいとおしく感じられる。
ワインレッドのガウンに袖を通す。水着のままだと、まだ残っている負傷の傷などから撮影日が分かる可能性がある。だから、今回は、ガウンを着ての撮影だ。襟元をきちんと合わせ、ベルトをしっかりと結んだ。
「もう、このガウンを脱がなくてもいいのね…」
ガウンの柔らかな生地は闘いつつづけたセレスティアをやさしく包んでくれるように感じられた。彼女は、ワインレッドのガウンを身にまとった自分の姿を鏡で眺めた。その姿は、まるで新たな戦士の誕生を告げるかのように、力強さと美しさを兼ね備えていた。セレスティアは、過去の苦悩を乗り越えた自分に誇りを持ち、微笑みを浮かべた。鏡の中の彼女は、まさにこれから始まる新しい章の象徴だった。心の中で、彼女はファンへの感謝を強く感じていた。
その姿は、まるで新たな戦士の誕生を告げるかのように、力強さと美しさを兼ね備えていた。セレスティアは、過去の苦悩を乗り越えた自分に誇りを持ち、微笑みを浮かべた。鏡の中の彼女は、まさにこれから始まる新しい章の象徴だった。心の中で、彼女はファンへの感謝を強く感じていた。
先輩であり今は団体の役員でもある霧島恵美が、ヘアアレンジとメイクをしてくれた。髪を櫛でとき、ポニーテールに整える。普段の試合の時は、相手に髪を掴まれるので髪を結ぶことはないが、今は特別な瞬間のため、彼女は髪をまとめることを選んだ。恵美はセレスティアの顔に優しくメイクを施し、彼女の目元を引き立てる。鏡の中で、彼女の表情は次第に自信に満ちたものになっていく。
恵美がメイクを施しながら言った。「レスラーはリングの上で死ねれば本望、なんてよくいうけれど、それは違うわ。リングの上で命を落とした選手たちだって、本当は、もっと多くの時間を生きたかったはずよ。私が引退したのも、自分の人生を大切にするためだったの」
恵美は言葉をつづけた。
「セレスティア、あなたは、本当に一度は死ぬところだったのだから、もう二度と、その危険な道に戻らないでほしいの。あなたには、もっと大切な未来が待っているんだから」
セレスティアは恵美の言葉に胸が熱くなった。未来への不安と期待が交錯する中、彼女は自分の選択を再確認した。
「私、もう一度、リングに立つことでしか、ファンに応えられないと思っていた。でも、先輩の言う通り、生き続けることはもっと大切ね」彼女は微笑み、心からの感謝を込めて言った。「ありがとう、恵美。あなたの言葉、忘れない。」
「あ、泣かないで、メイクが落ちちゃうから。セレスティアは生還してから泣き虫になったのね」恵美は笑いながら優しく頬をぬぐった。
「ネックレス、つけるね。これは私からの餞別よ」
恵美は金色の鎖のネックレスを箱から取り出すと、セレスティアの首にかけた。
セレスティアはリングに上がった。今日、待ち構えているのは対戦相手ではなく、カメラマンをしている妹の由香だった。リングの周りには会長や仲間たちが笑顔でいる。
「姉さん、準備は整った?」由香はカメラを構えながら明るく問いかけた。
いつもなら、リングに上がるとすぐにガウンははぎとられて白い水着になる。そして相手と取っ組み合い雄たけびを上げたり、技をかけられ絶叫したりするところだ。でも、今は、ワインレッドのガウン姿のままでいいのだ。
セレスティアは心の奥底から湧き上がる穏やかな感情に包まれた。リングの上での彼女は、戦士ではなく、感謝の象徴だった。
「準備はできてるよ、由香。」
彼女は微笑み、妹のカメラに向かって微笑んだ。シャッターが次々ときられていく。
「姉さん、今日の笑顔はとびきりいいね、素敵だよ」
いつもリングの上では、セレスティアは白い水着で闘志むき出しの気迫に迫る表情だった。しかし、今のワインレッドのガウンの彼女は、穏やかな微笑みを浮かべていた。彼女の笑顔は、過去の痛みを乗り越えた証であり、これからの未来への期待を感じさせる。由香の言葉に応え、セレスティアは心からの感謝を込めて答えた。
「あなたがいるから、私はここに立てるの。」
その瞬間、彼女の心に決意が芽生えた。もう一度、リングに戻るのではなく、より良い未来を築くために生きることを選ぶのだ。
由香はシャッターを切りセ、レスティアの笑顔を永遠に閉じ込めていく。
「セレスティア、本当に綺麗だよ!」
と仲間の一人が声をかける。セレスティアはその言葉に心が温かくなり、少し照れくさそうに笑った。彼女の周囲には、かつてのライバルや友人たちが集まっている。みんなの目には涙が光っていたが、その涙は悲しみだけでなく、彼女を思う温かい気持ちが込められていた。「ありがとう、みんな。私、頑張るから」
彼女はこの瞬間が永遠に続くことを願った。
「最後にみんなで集まって撮りましょう」
由香が言った。セレスティアは仲間たちの輪の中で、改めてその温もりを感じた。皆の笑顔が彼女の心を満たしていく。カメラに収まるため、彼女は自信を持って前に出た。「はい、ポーズ!」妹の声に合わせて、セレスティアは手を広げ、心からの笑顔を浮かべる。その瞬間、彼女はこの瞬間が永遠の宝物になると確信した。