第2話
仲間達が機敏に動く中、僕は陰鬱な気持ちに縛られていた。
足が動かず、その場にしゃがみ込みたい衝動に襲われる。
戦闘服も軍靴も今すぐ脱ぎ捨てたかった。
口から弱音ばかり漏れ出てくる。
「嫌だ、嫌だ……死にたくない……どうして僕が……」
その時、後ろから尻を蹴り飛ばされた。
驚いた僕は振り返る。
そこには顔を真っ赤にした上官が立っていた。
激昂した上官は僕の名を叫ぶ。
「ハイク! ハイク・ヒーデルト!」
「は、はいっ!?」
「何を呆けておる! さっさと出撃せんかァッ!」
上官に怒鳴られた僕は、逃げるように戦闘機へと乗り込んだ。
どうせ歯向かったところで意味がないことは知っている。
下手をすると見せしめで射殺されかねない。
コックピットに座った瞬間、僕は憂鬱になって息を吐いた。
不安と恐怖はどんどん膨れ上がっている。
慣れ親しんだ機内の光景にぼやく。
「またお前と飛ぶのかぁ……」
ヴァッハル二型と呼ばれるこの戦闘機は、国内で最も量産された傑作兵器だ。
サポートAIを筆頭に様々な最新機能を搭載しており、カスタム次第でどんな任務にも対応できる性能を持つ。
開発当時は「赤ん坊でも乗れる戦闘機」として宣伝されたらしく、実際に僕も訓練生の頃から使い込んでいる。
ただし訓練のトラウマを思い出すので、あまり乗りたくないのが本音だった。
顔を顰めていると、小型ディスプレイに今回の任務が表示された。
敵国の基地の破壊。
それと標的の魔術師の抹殺。
どちらも戦死率の高い任務だ。
特に僕みたいな新兵は使い捨て同然の扱いをされる。
あっという間に殺されてもおかしくない。
(魔術師の奴らが勝手なことをしなければ、今頃は徴兵されなかったのに……)
事の発端は、魔術師の国の宣戦布告だ。
彼らのせいで百年に及ぶ冷戦が決壊し、世界規模の全面戦争に突入してしまった。
もしこの戦争がなければ、僕は一般企業の平凡な社員として退屈だが平穏な人生を送れただろう。
それを考えただけで絶望感が際限なく募ってくる。
「駄目だ、この戦いが終わったら逃げ出そう……」
脱走兵になってしまうが構わない。
戦場で訳も分からず死ぬより遥かにマシではないか。
上手く逃げ切り、終戦まで兵役を免れることもできるかもしれない。
とにかくこの一戦だ。
この任務をどうにか生き残ってから考えよう。
僕は震える手を指紋認証のパッドに置く。
認証完了によってヴァッハルのエンジンがかかった。
操縦桿を握った瞬間、僕は何かが裏返る感覚に陥った。
驚く間もなく視界が暗転し、そのまま意識が闇に沈んでいく。