第1話
空飛ぶ人間が彼方から接近してくる。
そいつは足から噴き出す炎の推進力で加速している。
つまり炎の魔術師だ。
俺は戦闘機を急旋回させて距離を取る。
魔術師は上手く軌道を変えて追いかけてきやがった。
背後から炎を飛ばして俺を狙ってくる。
機体に炎が当たってコックピットが揺れた。
「クソが! 邪魔すんじゃねえェッ!」
怒鳴った俺は機体を宙返りさせた。
全身にかかる負荷を耐えつつ、魔術師を射線に捉えてトリガーを引く。
放たれた弾丸が魔術師をズタズタに引き裂いた。
死体は地面に落下して大爆発を起こす。
俺は機体を元の高度に戻す。
その際、不自然にスピードが落ちたことに気付く。
計器を見てすぐさま原因が分かった。
(エンジンがやられたかっ!?)
さっきの魔術師に炎を食らったせいか。
いや、それだけじゃない。
機体のあちこちに数え切れないほどの損傷があった。
連戦に次ぐ連戦により、もはや動いているのが不思議な状態まで酷使していた。
しかし撤退している暇はない。
ここは戦場であり、敵と味方が入り乱れて殺し合っている。
敵国――すなわち魔術師を殲滅しなければ、次に狙われるのは祖国にいる家族達だ。
絶対に退くわけにはいかない。
俺は機体に蹴りを入れてエンジンを復帰させると、視界内の魔術師を片っ端から撃ち落としていく。
魔術師は防御や回避に動くも、そんなことは予想済みだ。
相手が反応できない速度と密度で攻撃を叩き込み、無理やり殺し回ってやった。
「ほらほら、全員くたばりやがれ!」
右前方で雷光が閃いた。
しまった、と思った時には遅かった。
誘導された稲妻が機体の片翼を粉砕して貫く。
機体が大きく傾いて落下し始めた。
「……ったく」
俺は操縦桿を引っ張って機体を安定させる。
どうにか墜落は免れるも、コックピット内の警告音は鳴り止まない。
戦闘機は大破寸前で、最寄りの基地まで戻るのは不可能だった。
己の運命を悟ったところで、俺は息を吐いて笑う。
「よし、最期にやってやるか。クソ魔術師どもを道連れだ」
残弾数を確認し、機体のエンジンを全開にした。
後先考えない加速で飛びながら、目に映る魔術師を次々と撃ち殺していく。
魔術の反撃を貰おうとお構いなしだった。
「ははははははははははははははははははははははァッ!」
俺は歯を剥き出しにして大笑いする。
前方に山のような大きさの巨人が見えてきた。
巨人は青白い光に包まれてゆっくりと歩いている。
たぶん魔術で召喚された生物だ。
あんな奴が街に来たら甚大な被害が出てしまう。
ここで潰すしかないだろう。
もう弾は残っていない。
ならばやれることは一つ。
躊躇する理由はなかった。
「地獄で待ってるぜ」
戦闘機が限界以上の加速で巨人に突っ込んでいく。
凄まじい衝突音と爆発を聞きながら、俺の意識は消失した。