ラウレータの小さな冒険 ①
今日はお母様とディオ父様はいらっしゃらない。二人ともどうしても外せない用事があるからといって、今日は一人で朝食を食べている。
それは少しだけ寂しい気持ちになった。
お母様もディオ父様も忙しいから、そう言う時がたまにあるの。お母様と離れていた間、一人で食べることは結構あった。だけど、スラファー王国にやってきてからはほとんど一緒に過ごしている。
だから余計に私は二人が居ないのを寂しいって思ってしまうのかもしれない。
作ってもらった料理はおいしいけれど、一緒に食べる人が居ないと少しだけ物足りない気持ちになる。
そういう時はいつも、食事がなかなか進まない。だから屋敷で雇っている料理人達は、いつも私の大好物ばかり作ってくれる。私がいっぱい食べられるようにって。
優しい人たちばかりだ。
あとはロージュン国に居た頃は、嫌な言葉が結構聞こえてきていたけれど今はそういうことが少ないからのんびり出来ているのかもしれない。
ウェグセンダ公爵家は今は変わっているらしいってお父様は言っていたけれど、どうなんだろうね?
朝ごはんを食べた後は、お勉強をする。
学ぶことは大好きなの。だってね、沢山知らないことを知っていけたら、お母様やディオ父様に近づける気がするの。
「お嬢様は今日も難しい本を読んでいますね」
レナリにそんなことを言われる。
確かに私の年齢からすると、あんまり読まないような本を私は読んでいるとは思う。お母様は私は頭の回転が速い方だってそう言って褒めてくれるの。お母様は人のやる気を引き出すのが得意だなっていつも思う。凄いよね。
ずっと同じことを続けるのは結構疲れることみたい。私は勉強が嫌いじゃないけれど、得意じゃない人もいるんだって。
お母様の『花びら』と呼ばれる人たちの中にも、そういうことが苦手な人はそれなりにいるの。
だけれどもお母様って、勉強嫌いの人を否定したりはしない。どちらかというと、そう言う人を受け入れた上で無理にやらせたりはしない。お母様はそういう人。お母様って、教育者としての一面もあるんだと思う。
『花びら』の人達は皆、お母様のことが大好きだ。とても尊敬しているんだって、いつも楽しそうに笑っている。そんなにたくさんの人達と仲良くしているお母様って本当に凄いなっていつも思う。
今、読んでいるのは魔術に関するものなのだけれども、やっぱり楽しい。私は魔術を使うのが好き。お母様は私が魔術を使うと嬉しそうにしているの。
紙に魔術式を書いてみる。
魔術を使うためのもの。理解している方がずっと魔術を使いやすい。魔術って沢山の可能性があるものなのなんだって。私も出来ることがどんどん増えて行って、凄く嬉しいなっていつも思う。
頑張れば頑張っただけ、沢山褒めてもらえるしね。お母様もディオ父様も凄いって言ってくれる。
ただ魔術の勉強ばかりしないようにもしているの。ちゃんと他のことも学ばないと魔術だけしか知らないような人間になってしまうもん。
あまり一つのことだけ知っていて、他は知らないなんて状況にはならない方がいいと思う。
お父様とかその周りの人達も決めつけていたからこそ、お母様のことをあれだけ悪く言っていたんだもん。
皆がお母様のことが悪い人なんだって、良くない母親なんだってそう言っていた。それを聞いて凄く悲しかった。
――そんな風にはなりたくないなって思う。
だって誰かを悲しませてしまうことだから。私は、誰かに私と同じような悲しい気持ちはさせたくない。
でも幾ら気を付けていても辛い気持ちさせてしまったりすることはあるのかも。人と関わるのって難しいのかもなぁってそう思った。
お母様だって、あんな風に悪く思われたくなかったはずなのに、ああいわれていた。
私もそんな風に誤解されたりすること、これからあるのかな。その時に言葉を尽くして、そうじゃないよって言ってあげられるといいかもしれない。
そうじゃないと、もっと悲しいことが繋がっていくし。
私はそんなことばかり考えてしまった。
「お嬢様、そろそろご休憩をなさっては?」
私がずっと勉強ばかりしていたら、レナリにそう声をかけられる。
気づいたら結構な時間が経っていた。
勉強ばかりしすぎていても、問題あると思う。だから気晴らしもきちんとしないと。
「よしっ、ちょっとお出かけする」
私は侍女や護衛の騎士達と一緒ならば、お出かけしてもいいよと許可をもらっている。
ちゃんと、対策した上でだよ。じゃないと、私の存在は目立ってしまうから。お母様とディオ父様の娘という立場だと悪い人もいるんだって。
だからちゃんと周りのことも気にしておかないと。私は狙われたりしたら嫌だなって思う。
攫われたりしてしまったらお母様たちを悲しませてしまうし、誘拐犯の人達が罰を受けてしまうことになっちゃう。
そんなことにならない方がずっといいから。
そういうわけで、魔道具を使ってお出かけをする。




