図書室で本を読む
「この本、面白いかも」
私、ラウレータは王宮の図書室で本を読んでいる。
今日はね、お母様とディオ父様に連れてきてもらって王宮に来ているんだよ。おじ様――この国の王様に私はいつでもお城にきていいよと言われているの。
血のつながりはないけれど、王様の弟であるディオ父様の娘になったからって。
おじ様は私が来るととても喜んでくれるの。とても優しくて、私はおじ様とお話するのがとても好き。
王様って、国内で一番偉い人で凄い人だってお母様から前々から聞いていたの。このスラファー国の人達が幸せに暮らしているのはおじ様のおかげなんだって。
逆におじ様とおば様は、お母様とディオ父様の働きでこの国が良くなっているっていって笑うの。
互いにそんな風に言いあうなんてとても素敵だなって思った。
ロージュン国に居た頃に居た親戚たちは、お母様の凄さを認めてない人たちばかりだった。お母様は魔術を使えなくてもとても凄いのに、それを知ろうともしていなかった。
だから余計に、お母様はこの国で幸せなんだなって嬉しかったの。
ちなみにね、今はお母様とディオ父様が忙しくなったから、邪魔をしないように図書室に来て本を読んでいるの。
二人と話をしたいって人は沢山いるみたいだったから。
時々、私はお母様やディオ父様のお仕事を隣で見ていたりもする。でも今日は本を読みたい気分だったから。
図書室に勤めている司書の人ともすっかり顔見知りなの。
私のことを知っているから、にこにこしながら通してくれた。
お母様もお父様と別れた後に、図書館で働いていたと聞いているから司書の人には勝手に親近感がわくの。
今、私が読んでいるのは魔術の本。少しだけ難しいことが書かれているけれど、理解出来ないほどじゃない。
これもお母様やディオ父様から魔術のことを教わっているからだなと思うと、ちゃんと内容を理解出来ることが嬉しいの。
ディオ父様の魔術はね、凄いんだよ。見せてもらったり、一緒に魔術についてお喋りするのが私は好き。
お母様もね、魔術は使えなくても一緒になってお話にまざるの。
魔術について詳しくないと、会話についてこられなくなるってレナリ達が言っていた。実際に周りの侍女達は私達の会話なんて全く分からないんだって。
……私はお母様ほど自分は凄くないって思っていたけれど、周りの反応を見ると私も結構凄いのかも? なんて思ったりもした。
私はお母様のことを仲間外れにせずにお喋り出来るのが嬉しいなと思った。
私は魔術が好きだから、お母様が魔術を好きでいてくれて嬉しいの。だってお母様が魔術を好きじゃなかったら、その話をお母様に出来ないもんね。
この本にひっそりと描かれている魔術式、試したいな。
そう、今読んでいる本には一見すると分からないように一つの魔術式が隠されていた。
それは炎と光の複合魔術。二つの属性を混ぜ込んだ魔術ってかなり難しいはず。それがひっそりと本に潜んでいるなんて、この本の著者の方はきっと遊び心が豊富だわ。
魔術式を紐解いてみると、かなり攻撃力が高そうなものだというのは分かった。間違っても人に向けたら駄目そう。
難しい魔術式だからこそ、そもそも魔術を発動できる人は少なさそう。こんなに面白い魔術式を組み込んでいる人の名前を知りたくて著者を見る。
ただその名前は明らかに偽名だった。
うーん、誰なんだろう?
この本自体は私が生まれるよりも前に出版されたものだった。ただそこまで昔というわけでもなさそう。
なら……この著者の人ってまだ生きているのかな?
話してみたら楽しそうだなとそんなことを思ったりした。
「ラウレータ」
その本を一冊読み終える頃に、お母様が迎えに来てくれた。
「お母様」
私はなるべく大きな声を上げないように気をつけながら、お母様に駆け寄る。本当は大きい声を出したいけれども、今いる場所は図書室だもん。
勉強をしていたり、本を読んでいたり、調べ物をする人がいたり、様々なのだ。そんな人たちの邪魔をしたらいけないもの。
私が声を潜めて駆けよれば、お母様は優しい笑みを浮かべていた。
「帰りましょう」
「うん」
お母様と手を繋いで、図書室を後にする。
帰りの馬車へと向かう最中に、読んだ本の話をしたの。本に魔術式が隠されていることを知ったら、お母様は驚いていた。
その後にね、隠されている魔術式を誤って使う人が居たら危険だからって調査をするって話になったみたい。
ただあの魔術式、一部が欠けていて実際には発動しないようにされていたんだって。
お母様は「どうしてこんなものを隠していたのかしら?」と不思議そうにしていた。そしてとても楽しそうにしていたの。
きっとお母様はその理由を突き止めようとするんだろうなと、楽しみになった。
わかったら私も教えてもらおう! ってそう決意したのだった。
ラウレータsideの話




