姉だった人のことと、後悔 ⑦
二巻の書影公開されてます。
また帯に記載ありますが、コミカライズ企画も進行中です。来月発売なのでよろしくお願いします
私の予感は当たっていた。
あの人はどんどん活躍していき、その分だけシンフォイガ公爵家の名声は下がっていった。
私達は魔物に対する対応は相変わらず続けている。そのことは領民や、国民達に感謝はされているだろう。……そう、私達は魔術師の家系として、それさえ出来ていればこれまでは良かったのだ。
私達に求められているのは、魔物討伐だったから。
……だけど私達が変わらなくても、周りはどんどん変化していく。
他でもないあの人のことで。まず大きな変化は、あの人以外の二人の姉が離縁されて戻ってきたこと。
「どうして私がこんな目に……!!」
「クレヴァーナお姉様なんて出来損ないでしかなかったのにっ」
嘆く二人の姉の姿は中々酷い有様だった。過去に社交界の花などと言われていたことが信じられないぐらいに恐ろしい顔をしている。
こんな時まで、あの人のせいに何もかもしている。
離縁された原因だけれども、『花びら』の人達によって、ロージュン国内で広まっている二番目の姉に関する悪評は払拭されていっている。そして陛下も正しい情報を広めている。……その結果どうなるかといえば、二番目の姉に押し付けていた悪評が他の二人の姉のものだという真実も当然広まっている。だからこそ離縁されるのも言ってしまえば自業自得だった。
――血の繋がった姉妹に対して、魔術を使えないからという理由で酷い扱いをするなんて信じられない。
――あなたがもっと家族を大切にしていれば『知識の花』が他国へ流出することなどなかったのでは?
そう言ったことを義実家には言われたそうだ。
……その言葉は、私にとっても耳が痛かった。
そう、血がつながった家族なのだ。それなのに私は……あの人を放っておくことが当たり前になっていた。正直言ってシンフォイガ公爵家の家族仲はそこまで深くはない。劇などで見かけるような熱い家族愛なんて基本的には貴族にはない。いや、まぁ、仲の良い家族を持つ貴族も知ってはいるが、少なくともシンフォイガ公爵家は異なる。
もし私があの人に対しての態度を変えていれば……、少なくともその悪評が偽りだと知っているのならば何かしらの行動が出来たのではないか。
私は今更ながらそんなことを思った。
……幼いころから、ただ息を殺して生きているあの人のことをずっと気にしなかったかと言えばそういうわけではない。それこそ小さな頃は、あの人は姉なのにどうして一緒に食事をしないのかとか、お客さんが来た時になぜ挨拶をしないのかとか、家庭教師がつけられないのかとか。そんなことを考えていた。
ただそれも、あの人が「魔術を使えない出来損ないだから」「跡取りであるあなたが気にする必要はない」とそんな風に周りの大人たちに言い放たれた。そうして結局あの人のことを気にしなくなった。
あの人は公爵令嬢という立場にも関わらず、最低限のものにか与えられてこなかった。ただ生かされていただけで、それ以上の何かはなかった。
……私はあの人がどう生きようがどうでもいいと思っていた。そして勘当後にこんな風に私達に影響を与えるなんて思ってもいなかった。
――私達は、陛下からの心証はとても悪い。『知識の花』を流出させてしまったことに関して、国民達からも悪感情を持たれている。
これまでは有数の魔術師を輩出する家系として、寧ろ羨望の目を向けられていた。
だというのにも関わらずこれだけ評価が反転していることに驚く。……あの人も、こうだったんだろうか。
これまで悪評だらけだったのに、こうして今は『知識の花』なんて呼ばれるようになっているのだから。
父上も母上も、そして二人の姉も嘆いてばかりだ。
嘆いてばかりでは状況は変わらないし、私達があの人に対して酷い扱いをしていたことは事実だ。過去は変えようがない。そして今はクレヴァーナ・スラファーの名を持つあの人は、私達と関わろうとはしない。
報復一つもしない。ただ『花びら』達が部分的に接触してくることは当然あるけれども。
そう、あの人は私達に興味も感心もない。
……私達に手を差し伸べることもなければ、私達を貶めることなどもない。
そう、本当にそれだけなのだ。私達が勝手に危機的状況に陥っているだけの話。
シンフォイガ公爵家が勝手に落ちていっているだけの話。
他の家族が全く動く気がないのならば、私がどうにかするしかない。このままただあの人に対して悪評を広めたところでどうしようもない。母上は負けないなどと自信満々に言っていたけれども、そんなことはないだろう。
姉二人もあの人をどうにか出来れば返り咲けるなんてブツブツ言っているが、そんなのは普通に考えて無理だ。
「……陛下に、話をしに行くか」
父上も母上も、姉二人も……正直使い物にならない。だからこの家の跡取りとして私は話をしにいこうと決意した。




