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【9/10二巻発売・コミカライズ企画進行中】公爵夫人に相応しくないと離縁された私の話。  作者: 池中織奈
番外編

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姉だった人のことと、後悔 ④

 徐々に周りの人々の態度が変わっていく。

 その事実に私は驚愕してしまう。




 父上と母上がこれまでシンフォイガ公爵夫妻として築いてきたものが全て役に立たない。





 ……というより『知識の花』の方が影響力が強いというか、そういう状況なのだろう。

 我が家に仕えている使用人達の中では、父上と母上の話を聞いても『知識の花』のことを何処からか聞いたのか心配そうな様子を見せている者もいる。ただ中には当然、父上と母上に感化されて、あの人のことを悪く言う者も多い。





 ……私はあの人が離縁されて、勘当されるその時までこういう態度をされても、魔術を使えないのだから仕方がないと思っていた。寧ろ魔術が使えないのだから、この位役に立ってもらわなければ……などと思ったりもしていた。正直あの人に対してそこまでの関心はなかった。

 あの人がどうなろうとも知ったことではなくて、あのまま離縁され、一人で生きていくことになった二番目の姉の人生は悲惨なのだろうと勝手に思っていた。





 それなのに……我が家がどれだけ心無い噂を流していても、利用されていても、何もかもが上手く行かなくても全く反抗の一つもしなかった。それなのに……今のあの人は、我が家に明確に反抗している。

 父上と母上が苛立っているのは、今まで何をしてもされるがままだったあの人がこうして反抗をしてくることが気に食わないからというのもあるかもしれない。




「……父上、母上。流石にもうこれ以上あの人を――『王弟の愛する知識の花』を悪く言うことはやめた方がいいかと。その行動をするだけで徐々に人が離れて行っています。形だけでもいいので反省――」




 心からあの人に詫びようなんて思ってなかった。私だってあの人のせいでこんなことになっているのはどうしようもないモヤモヤした感情は抱いている。



 本当にそれがあの人なのか。

 まるで意思のない人形のようであったあの人が、こんなことをするのか。

 そんなことは思ったけれど、確かにあの人の名を名乗っている人が我が家を窮地に陥らせているのは事実だった。





 貴族として横のつながりは大事だ。

 幾らシンフォイガ公爵家が多くの優秀な魔術師を出している名門とはいえ、私達だけで生きていけるわけではない。――だからせめて形だけでも反省している様子を見せるべきではないかと提案したら、頬に痛みが走った。




 母上にぶたれたと、すぐには気づけなかった。



「……母、上」



 いい年をして、私は母上にぶたれたことなどなかった。




 ……思い返してみれば、あの人は暴力を振るわれることも、他の二人の姉達に魔術の的にされることだってあった。




「何を言っているの!! アレに謝るなんてとんでもない!! 私がアレを産んで、どれだけ肩身の狭い思いをしたと思っているの!? お腹を痛めて産んだ第二子が生まれつき魔術が使えないという不良品だったのよ!? そのせいで私が悪いのではないかなど散々言われたわ。次に生まれた子供が魔術を使えたからまだ良かったものの……! そんな何の役にも立たないアレが、隣国で活躍するなんてありえないの!」



 母上は私が見たことがないぐらいに激高していた。




 ……母上が、あの人への態度が冷たかった原因ってこれかと思った。




 シンフォイガ公爵家は魔術師の名門の家系であり、当然そこで産まれる子供は魔術師として活躍することを求められる。だというのに……次女として産まれたあの人は、魔術を使えない身体で産まれた。

 そのことで散々、親族からは責められただろうし、周りからあることないこと言われたのだろう。

 ……だからこそ、母上は形だけでもあの人の名を名乗る人に、反省の態度など見せたくないのだ。

 それに跡取りである男子――私が産まれるまでは跡取りを産むようにプレッシャーなどもあったんだろうな。






「しかし……」



 そんな母上の気持ちは分かる。



 けれどもシンフォイガ公爵家のためには、どうしても吞み込まなければならない部分があるのではないかと説得しようとする。

 だけれども結局父上も母上も、私の言葉など聞かなかった。






 ……跡取りとして私は両親からよくされていた。あの人がいた時は正直年も離れていて関心もなかったから、一緒になって噂を流したり、暴力を振るったりというのはしなかった。

 ただ私は魔術を使えて良かったなと、あの人を見る度に思っていた。





 他でもない跡取りである私の意見なら、両親は何だかんだ受け入れてくれるのではないかと思っていたのだ。

 でもそんなことはなかった。




 ……逆に私は大人しくしているように命じられてしまった。

 この一件には関わるなと、そんな風に。





 正直、隣国の『知識の花』をあの人が名乗り、凄まじい働きをしているのだからそれに敵対し続けるのは得策ではない。

 それが頭では分かっていても、まだシンフォイガ公爵家を継いでもいない私が両親の決定に逆らうことは難しかった。






 もちろん、謹慎中も出来る限りなんとかしようとしたが――その影響力など微々たるものだ。

 結局謹慎が解けた時にはもう状況は悪化していた。


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― 新着の感想 ―
そういった子供を産む因子を持っていたのだから、生んだ方が悪いといわれるのは仕方がない。 生まれた子には罪がない。自分を責めるのならわかるが、それを責任転嫁して、子が悪いなんて、ばかげている。そんな親だ…
「魔術が使えないのだから仕方ない」 …と、ふんぞり返っていたら… 「魔術しか使えないボンクラだった」 …と、バレた訳ですねな。 まぁ、初期の当主達は本当に優秀で誇り高い人格者だったのかもしれませんが、…
どうせならとことん逝くべし、慈悲はない。
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