『王弟の愛する知識の花』と呼ばれる彼女のことを思う。
2/24 二話目
クレヴァーナが『知識の花』と呼ばれている結婚式前のゼッピア
「クレヴァーナ様がこちらで働かれていたというのは本当ですか?」
「私はクレヴァーナ様のおかげで救われたのです!」
連日、仕事をしている私、ゼッピアの耳にはそんな言葉が沢山聞こえてくる。
私はその言葉を聞くと、自分のことのように誇らしい気持ちでいっぱいになる。だって、『王弟の愛する知識の花』と呼ばれるようになったクレヴァーナは私にとって大切な友人だから。
私と出会った頃のクレヴァーナは不思議な子だった。
どこか危うい雰囲気があって、世間知らずで……その見た目の美しさも相まって、浮世離れした存在に感じられた。私はそんなクレヴァーナのことが心配だった。
クレヴァーナはそれこそ自分のことにも関心がないような……好きなものが分からなかったり、人が当たり前に経験していることを知らなかったり。それでいて長けた言語力と素晴らしい記憶力を持つ。
元々からクレヴァーナは凄い子だった。
本人は全然自覚をしていなかったけれど、私はなんてすごい子なんだろうってすぐに気づいた。
育ってきた環境からか、怒ることも出来なかった。そんなクレヴァーナが自分の意思で立ち上がり、そして生き生きと行動をしている。その噂を聞くだけで、活躍を知ることが出来るだけで、私は本当に嬉しくて仕方がない。
私がクレヴァーナと親しくしていたことは知っている人は知っている。だからクレヴァーナのことを問いかけられたり、クレヴァーナと縁を繋ぐために私に話しかけてくる人は沢山いる。
そういう人たちの相手は大変だけれども、クレヴァーナと友人だからこその苦労なら仕方がないと思っている。
クレヴァーナの悪評を信じて悪く言っていた人たちの態度はそれぞれだ。気まずそうに暮らしている者や調子よくクレヴァーナと仲良くしていたなどという者など……様々だ。あとは相変わらず影でクレヴァーナを悪く言う者も居ないわけではない。
それだけクレヴァーナが目立つ存在で、この国にとっては無視の出来ない『知識の花』となったから。
私はクレヴァーナと手紙でのやり取りをしている。
クレヴァーナは王弟であるカウディオ殿下とまだ結ばれてはいないとはいえ、その仲はほとんど周知の事実のようだ。
クレヴァーナからの手紙には、カウディオ殿下への愛情に溢れている。それでもクレヴァーナは自分が相応しい存在になってからでないといけないとそんな風に思っているようだった。
そういうことを考えずにただカウディオ殿下からの気持ちを受け入れることも出来ただろうに、そうしないのがクレヴァーナらしい。私はそういうクレヴァーナだからこそ、余計に好きだなと思う。
「でも『知識の花』なんて呼ばれるようになったのだから、そろそろ気持ちに応えてもいいと思うのだけど……」
クレヴァーナは自分に厳しい子だ。幾らでも頑張らないことを選択できるのに、それを望まない。……大変な道に自分から突き進んでいく様は正直言って心配にはなる。
私としてみればもっと平穏な道を選んでもいいのにと思う。……けれどきっとクレヴァーナはこのまま突き進み続けようとするのだろうな。
そのことが容易に想像が出来る。
大切な友人は、ただの司書という立場の私からすると手の届かない存在へとさらに成り上がっていくだろう。――それでも私は、クレヴァーナとずっと友人で居られるだろうなとはなんとなく確信している。
人によっては立場が変われば、態度が変わる。そしてそのまま関係性が変わっていくというのはあり得ることだとは思う。
けれども……私とクレヴァーナなら大丈夫。ううん、私がそうであってほしいとただ望んでいるだけとも言える。
クレヴァーナはそのうち、カウディオ殿下と婚姻を結ぶだろうか。
それを想像するだけで私は楽しみになる。結婚式には私も参加したい。クレヴァーナが王都でどんなふうに過ごしているか見に行きたい。
クレヴァーナがこの街を後にしてから、クレヴァーナはずっと王都で暮らしている。会うことは中々出来ていない。そのことは少し寂しく思う。
だけどクレヴァーナの活躍は離れていても耳に入ってくるから、元気に暮らしていることは分かるからそれは嬉しい。
クレヴァーナはこれからどんなふうに活躍をするだろうか。きっと私が想像が出来ないぐらいの様々な偉業を成すのだろう。クレヴァーナについての本もこれから沢山作られていくだろうから、それを読むのも楽しみだ。
どんな人が書籍の内容を紡いでいくかによっては、実際のクレヴァーナと違う風に書かれたりもするのだろう。
――クレヴァーナは自分についての本は読むのだろうか。
そうしたらその話をクレヴァーナとするのも楽しいかもしれない。きっと自分のことが褒められていたら照れて、ほほえましい姿を見せるだろうから。
いっそのこと私がクレヴァーナの本を作ってみようとしてもいいかも。
次にクレヴァーナと会えた時には、そのことも聞いてみよう。
そんなことを考えていた私がクレヴァーナに次に会えたのは、彼女の結婚式の時だった。幸せそうな姿を見て、私はとても嬉しくなったのだった。




