女性が生きやすい環境づくり ㉓
「なるほど……」
私は監禁されている人たちからの話と、ドーデンからの話を両方聞いた上で何とも言えない気持ちになってしまっていた。
監禁されていた人数があまりにも多かった。それに女性だけではなく男性や子供までいた。
驚いたことに件の親方が女性に産ませてしまった子供であるようだった。それでいてその子供には出生届が出されていない。この国では子供が産まれた際には国に報告をするようになっている。正しく国民の数を把握することは重要なことだから。
とはいえすべてが把握できるわけではなくて、世の中には産まれたことを知られていない子供というものは存在する。ただ王都でも有名な存在がそういうことをやらかしているのに誰も気づけなかったこと、そしてその子供がもう既にラウレータと同じ年頃ぐらいだというのだから中々根深い問題だ。
それにこうして監禁していない以外にも、同じような立場の子供がいるかもしれない。……そういう問題を起こしている人が、本当にどうしてこんなことをするのか分からない。
人によっては何人もの相手と体を重ねたり、子を成したりすることは……私には理解が出来ないけれどそういうこともあるとは思う。ただそれをするのならば関わった人たちを幸福にしてほしいと思ってしまう。
私はカウディオがそういう風に他の誰かを見たら、とても悲しくなってしまうだろう。
本人同士が幸せなものだったならば、私は問題ないと思うけれど……。これはそうじゃないもの。
「本人に関しても身柄を確保しているのよね?」
「はい。クレヴァーナ様の集めてくださった情報で、捕縛するのに十分なものがありましたから。そのまま国に引き渡してます」
「ありがとう。正式に罪を償わせられるわね。あとは……監禁されていた人たちの意思も尊重したいわ。これまでの人生を不当に奪われたも同然なのだから、それ相応の償いは必要だと思うの」
国としては罪を償わせることは出来るだろう。ただそれだけでは不十分だ。だから誰が何と言おうとも、その償いはきちんとさせるべきだ。あとは尋問によって追加の情報をどれだけ聞き出せるかも……。
ドーデンたちの救った監禁場所以外にも、同じような場所はあるかもしれないのでそのあたりは全て調べておかないと。
「そうですね。僕もそう思います」
そう言った後、ドーデンは何か言いたげに私のことを見ている。
「どうしたの?」
「……クレヴァーナ様もご実家にそれ相応の償いをさせても構わないと思います。それだけクレヴァーナ様の人生を奪っていた存在なのですから」
そう言われて少し驚いた。まさか今更実家の話をされるとは思わなかったから。
だけど確かにそう、周りからしてみるとそう思うのも当然なのかもしれない。
祖国に居た頃の、離縁される前の私は自分の意思というものが正直解っていなかった。自分が何をしたいか、どうやって生きていきたいかそんなことは考えていなくて――流されるまま、言われる前に生きていた。
反抗も反発も私はしてこなかったなと思う。
「私は要らないわ。あの人たちと関わりたいとも思っていないもの。それに、おそらく私がそんなものを求めたら面倒なことを言いだすに決まっているわ。だから私のことは今はいいわ」
――それにそもそも、既にあの家は私が『知識の花』と呼ばれ活躍していることで随分大変な目には遭っているのだ。それこそ今までのプライドとか、地位とか、全てが失われている状況と言えるかもしれない。どういう暮らしをしているかは特に関心がないというか、気にしていない。
そういう私は少し冷たいと言えるのかもしれない。でも血の繋がった家族であろうとも、私にとって大事な家族はカウディオとラウレータだけだもの。
「そうですか。なら、僕はこれ以上何もいいません」
「ええ。そうしてくれると嬉しいわ。今回のあの親方の暴走に気づくことが出来なかったことも問題だと思うから、そのあたりを防止するための施策も練る必要があるわね。本当に危険な目にあった際にすぐに助けを求める連絡を出来るようにする魔道具も作った方がきっといいわ」
基本的に魔道具と呼ばれるものは高価なものだからこそ、普及しにくいという問題点はあるけれど、誰かの身の危険を守るためのものならばなるべく安価で広められた方がいいわよね。
そのあたりも女性が働きやすい環境を作るために必要なことだわ。
そもそも自身の安全が確保されていなければ、そうやって働くことも出来なかったりもすると思うもの。
「そうですね。そのあたりもどうにかした方がいいです。まさかこんなことが王都でおこっているとは思いもしてなかったです」
「そうね。あの親方のことを調べるきっかけになったエンムントには伝えておかないと。……エンムントの元恋人の方も捕まったのよね?」
「はい。一緒になって問題を起こしていたことは確認出来ております。それに周りが大変な目に遭っていることは把握していたようなので」
「……そうなのね。知らなかったなら罪を軽くすることも出来たけれど駄目ね。きちんと罰してもらいましょう」
エンムントはショックを受けてしまうかもしれないけれど、幼なじみの女の子のことは報告しておく必要はあるわ。
それに後始末は山ほどあるから、一つずつ片付けておかないと。




