女性が生きやすい環境づくり ⑳
「クレヴァーナ様、指示されたとおりに動いておりますが……あの男、勘がいいようです」
「あら、それはどういうこと?」
私の教え子――花びらの一人の魔術師、ドーデンの言葉に私は答える。
ドーデンはまだ十五歳の、明るい茶髪の少年だ。大変優秀で、魔術が大得意なの。特にどこかに所属しているわけではなく、魔術の研究をしながらフリーで活躍しているの。王宮で働かないかと乞われたこともあったようだけど、断ったらしいのよ。
私の生徒達は本当に様々な人生を歩んでいて、その話を聞くだけでも私は楽しいなと思ってしまう。
「僕たちに完全に気づいているわけではないようですが、探られていることは分かっているようです」
「まぁ、そうなのね。まぁ、そうでなければここまで放置はされていなかったでしょう」
特に驚きはしない。
彼が簡単につぶれるような人間だったのならば、言ってしまえばこれだけ王都で好き勝手など出来るはずがないのだ。それだけ巧妙に……周りの目を欺きながらも被害を出し続けたのだと言える。
「私にまでは辿り着いているの?」
探っている相手が、私だと把握しているのかそうでないのか。どちらなのかしら?
「いえ、流石にクレヴァーナ様が動いているとまでは分かっていないようです。ただ僕の仲間の一人は捕まりかけました」
「それって大丈夫なの? 指示通りに動いては欲しいけれど、あまり無茶はしてほしくないわ」
ドーデンはフリーの魔術師ではあるが、同じフリーの魔術師仲間を連れて探ってくれている。
捕まりかけたなどと物騒なことを言われると、流石に心配になってしまった。
私の言葉にドーデンは安心させるように笑った。
「大丈夫ですよ。僕たちも自分の命は惜しいので、そのあたりはきちんと引き際は誤らないようにするつもりですから」
「なら、良かったわ」
「クレヴァーナ様のためにも必ず、あの男の尻尾を掴んでみせます。だから成功したら褒めてください」
「構わないわ。きちんと報酬も渡すわよ」
「……クレヴァーナ様からの頼みならば報酬なんて必要ありませんが」
「もう、それは駄目よ。行いには正当な報酬を与えられるべきだもの」
花びら達の中にはドーデンのように、私の頼みならば無償で行うなどという子たちは少なからずいる。それだけ私のことを慕ってくれているのだとは分かるけれど、それは駄目だと私は思っている。
自分たちの技術や行動を安売りはしてほしくないもの。私の生徒たちはそれだけの価値がある子たちだから。
私の言葉にドーデンは頷いて、また私からの頼みに応えるために出かけていった。本当に素早いわ。
魔術というのは、本当に素晴らしい力よね。私は自分の手で魔術を使うことはできないけれど、実際に魔術を行使している人たちからしてみてもドーデンの魔術は凄いみたい。だからこそ様々な所からスカウトをされているのだろうけれど。
あの親方の男性がそれだけ用意周到で、警戒心が強いのならば……もしかしたら逃げられてしまう可能性もあるかしら。
それを考えると、少し面白いなと思ってしまうのは不謹慎かもしれない。
ただ基本的にはいつも私の想定通りに収まる出来事の方が多いから、想定外の事が起こるのは少しだけ驚いてしまうの。
でも私は負けるつもりはないわ。
向こうは私を出し抜こうとして、もしかしたら私のことを潰そうと思っているかもしれない。
負けないためには、誰をどう動かしたらいいのか。どんなふうに組み立てていけばいいのか。
私はそのことを思考し続ける。
これから起こりうることを想定し続け、どのような出来事が起こったとしてもどうにでも出来るように組み立てる。
向こうが探っている相手が私だと気づいた時には何をするだろうか。
今まで沢山読んできた書物には、情報が溢れている。沢山の事例がそこには載っていた。
私はその情報を一つ一つ整理する。小説などで読んだ登場人物の性格からも、示し合わせたりも出来るわよね。
親方の男性と似た性格の登場人物はいたかしらと、そんなことを思考してみる。
組み合わせて、形作られていく。
「……また待たなければならないわね」
私が表立って、親方の男性に対峙するのは得策ではないと思っている。
寧ろ探っている側が誰か分からない状況で仕留められる方が一番いい。それで被害にあっている人たちのことを救えればいいとそう思った。
焦りは禁物だと、書物にも書いてあった。
だから、冷静に……物事を考えよう。
そして判断をし続けよう。
そう思いながら、私は花びら達の報告を待つ。
そして発覚していったことを、少しずつ整理していく。ちょっとした情報を組み合わせれば、大きな情報へと導き出されることもある。
……どうやら例の親方の男性は今まで関係を持った女性の一部を監禁している可能性があることが分かった。




