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【9/10二巻発売・コミカライズ企画進行中】公爵夫人に相応しくないと離縁された私の話。  作者: 池中織奈
番外編

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女性が生きやすい環境づくり ⑰

「俺はエンムントです」

「そう。私はクレヴァーナ。そしてこの子はラウレータ」




 私がそう口にしたけれど、特に彼は反応を示さなかった。私の名前を聞いて反応をしなかったのは、『知識の花』と呼ばれている私がこんなところにいるとは思っていないのかもしれない。

 魔道具で私だと分からないようにしているもの。あとは私の名前は知っていても、娘の名前まではきっと知らないのだろう。




「それでどうしてあのようなことを? 嫌がっている人に対してあのようなことばかりしているとあなたの評判に関わるわ」

「私も人に嫌なことをしたら駄目だと思うよ!!」



 私の言葉の後に続けて、ラウレータがそう口にする。


 ラウレータの言葉を聞いて、男は罰が悪そうな顔をしている。




「……からです」



 そして言いにくそうにぽつりと何かを言う。




「なんて言ったの?」

「……失業して、将来に希望が持てなくて自棄になってしまったからです!!」




 言いにくそうにそう言い切ったエンムント。

 同席している魔術師と、花びらの子が冷たい目で見ている。……誰にだってそういう前向きに頑張れない時期があったりするのだからそういう視線を向けないようにという意味を込めて視線を向ければ、彼らは態度をただした。



「そうなのね。でもこの王都でならば仕事なんて幾らでもあると思うけれど、そんなに思い入れのある職場だったの?」



 エンムントの言葉を聞いて私は不思議に思ってしまった。田舎であるのならばそれだけ求人の数も少ないだろう。だけど、此処は王都だ。

 探そうと思えば幾らでも職を探すことが出来て、どうにでもなるとは思ってしまった。

 それだけ思い入れのある職場だったというのならば、どうしてそこにいられなくなったのだろうか。




「……俺は元々、鍛冶師として働いていました」

「まぁ、それは素晴らしい職業だわ」




 魔術が使える人はともかく、そうでない人は武器を使って魔物の対応を進めたりするものだ。騎士達にとっては鍛冶師はなくてはならない存在。




「……元々小さな村出身で、そこで村の鍛冶師に鍛冶を教わりました」

「そうなのね。小さな村から王都に来るなんて環境の違いで大変だったでしょう」




 あくまで話を聞くために呼んだので、エンムントの言葉に頷きながらどうして失業することになったのか、そこまで自棄になってしまったのかを聞く。

 ラウレータも話を聞く時間だと分かっているからか、必要以上に声をあげたりはしない。本当にいい子だわ。





「幼なじみと一緒に王都に行こうと昔から目標にしていて、一年ほど前にそれが叶いました。二人で王都に出てきたんです」

「素晴らしいことね」

「俺は鍛冶屋で働き、幼なじみは裁縫師として働くことになりました。最近まで平和に暮らしていたのですが……俺は昨日、突然解雇されました」

「まぁ……」




 途中まで順調に進んでいただろうに、急に解雇などという単語が飛び出てきて驚いた。



 しかも昨日だなんて、青天の霹靂だったのならば平然としてられないのも仕方がないのかもしれない。




「でもどうして突然解雇なんて?」

「……恥ずかしい話なのですが、俺は一緒に村に出てきた幼なじみと恋人だったんです。その恋人が、職場の親方にとられました。それで俺が邪魔だからって解雇されて、親方は王都でも名が知れている鍛冶師なので王都で俺が職に就けないように手を回しているらしくて……うぅっ」




 ……事情を語っていたかと思ったら、大の男が泣き始めて驚いてしまった。

 見た目とは異なり、繊細な性格なのかもしれない。




「お兄さん、泣かないで。元気出して」




 ラウレータは突然泣き出したエンムントを慰めるように優しい声をかけている。



 その後、なんとかエンムントを泣き止ませて引き続き話を聞いたけれど中々酷い話だった。

 あとエンムント、見た目にそぐわぬ若者だった。私よりも年下だった。……女性に絡んでいた時は自棄になって、強がってああいう態度をしていたらしい。





 そもそもの話、色恋沙汰で誰かを解雇して、その後、解雇した相手に対して嫌がらせをするなんて信じられない話だと思う。私は正直嫌な気持ちになった。

 ……自分が王都内で発言力があるからという理由で、好き勝手しているみたい。




 私はこういう事を知ると正直嫌な気持ちになってしまう。誰かが何かをしようとする、それを邪魔するのってとてもかっこ悪い話だわ。

 それに恋人だったという女性も――別れたいのなら穏便に別れればいいだけで、相手を傷つける必要性など全くないのだ。





「エンムント、私に一旦この件預からせてもらえるかしら?」



 私は自然とそう言っていた。



 だって話を聞いて、きっとエンムント以外にも大変な思いをした人も多そうな放置できない問題だと思ったから。




 王都内での問題は気づいた限り、改善するようにしているけれど……やっぱり見えないところでこうやって何かしら起こっていたりするのよね。全てをどうにかすることは出来なくても、目についたものはどうにかしたいものだわ。

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― 新着の感想 ―
黄門様みたいになってきた
 天誅(ざまぁ)の時間だ!(黒笑)
男の名前は「エトムント」なのか「エンムント」なのか、どっちなんでしょう? 前回で店員の女の子に絡んでいる場面を押さえられて連行されて(話を聞くために連れ出されて)来てるのに、聞かれるまでもなく自分か…
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