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【9/10二巻発売・コミカライズ企画進行中】公爵夫人に相応しくないと離縁された私の話。  作者: 池中織奈
番外編

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女性が生きやすい環境づくり ⑯


「お嬢ちゃん、俺と一緒に出掛けよう」




 私たちがゆっくりと食事を食べながら過ごしていると突然そんな声が聞こえてきた。

 あら? と思いながらそちらに視線を向ける。そこではカフェの店員の女性が男性客に話しかけられていた。




「勤務中ですので……」

「なら仕事が終わった後でもいいから。な、いいだろう?」




 カフェの店員の女性は嫌がっている。だけど周りのお客さん達は見て見ぬふりをしていて、そのことに眉をひそめてしまう。

 ああ、でもああいう風に背が高くて怖そうなタイプの男性だと恐ろしく思ってしまうのも当然だとは思う。だから私はこういう場所で行動できる人を尊敬はするけれど、動かない人に対してはそういうものだとは思う。




「ラウレータ。私、少し行ってくるわ」

「うん。いってらっしゃい。お母様」




 私が椅子から立ち上がると、ラウレータは笑みを浮かべて私のことを送り出してくれる。



 ラウレータは私のことを信頼してくれている。こういう状況下でも、私ならば大丈夫とそう思ってくれているのだろう。まぁ、私は魔道具を持ち歩いていて、加えて護衛もこっそり控えているから最悪の事態にはならないけれど。




「その子は嫌がっているでしょう? 仕事の邪魔をしてはいけないわ」




 私が女性店員と男性に近づいてそう告げれば、男性は「ああん?」と下品な声をあげてこちらを見た。




 最初は恐ろしい顔をしていたその男性は私をじろじろと見た後、ニヤリッと笑う。

 ……なんだか嫌な感じの表情だわ。こういう目、向けられたことはあるけれど少し嫌な気持ちになるわ。



「なんだ。いい女じゃねぇか。お前が代わりに相手になってくれるのか?」

「いえ。それは出来ないわ。私は結婚しているもの。それよりそういう行いはやめた方がいいと思うわ。そのようなことを続ければあなた自身の評判にも関わるものだから」



 男性の態度は最悪と言えば最悪だったけれど、笑みを浮かべてそう告げる。

 最初から喧嘩腰な態度をする必要はないもの。だから敢えてこういう態度を取る。

 それにしてもこういう行いをし続けるのは本人のためにもならないと思う。その時は自分にとって問題がないことだと思っていても――こういうことを続けていれば大変なことになるわ。





「……随分、おりこうさんなことを言うじゃねぇか。なんだ、俺を心配しているのか?」

「そうね。このままだと身を滅ぼすことになりかねないわ」



 私が頷き、そう言ったら拍子抜けした顔をされる。それにしてもこうやって私の話を聞こうとしてくれるのならば根は悪い人間ではないのかもしれない。

 先ほどの嫌がる女性をしつこく誘っている様子を見ると、悪い人間に見える。だけど――やっぱり人というのは話してみないとその本質や性格などは分からない。




「そうはいっても……俺は……」

「何か悩みがあるなら聞くことぐらいなら出来るわよ? 何か嫌なことがあってこんなことをしているのなら、きちんと彼女に謝った方がいいわ」



 私がそう口にすると、案外すぐにその男性は迷惑をかけた女性に話しかけた。

 私の言葉を聞いて、自分の行いを悔い改めているのを見ると、本来は素直な性格なのかもしれない。




「お店を出て話をしましょうか。ちょっと娘を迎えに行ってくるわね」



 私はそう言って、ラウレータの元へと戻る。

 ラウレータはキラキラした目で私を見ている。緑色の瞳が私のことをまっすぐに見つめている。なんて可愛いのだろうと思わず頬が緩む。



「ラウレータ。あの男性の話を聞こうと思うから、一緒に行きましょう」

「ここではしないの?」

「こういう人目がある場所で話したくないこともあるでしょう。ただでさえ先ほどのことで注目を浴びているのだもの」

「確かにそうかも」



 ラウレータは私の言葉に頷く。



 このまま此処で会話を交わしたのならば、あの男性の話したくないことが広まってしまうかもしれない。誰にだって聞かれたくないことはあるだろうし、そのあたりはきちんと配慮しないと。



 そういうわけで私はラウレータを連れて男性の元へと向かう。その男性は「……子持ち」と驚いた顔をしていた。

 子供がいるとは思わなかったのかもしれない。




 それから私はラウレータと男性を連れてお店を出る。そのタイミングでひっそり護衛についていた魔術師の一人にも出てきてもらう。



 女性の私だけが話を聞くよりも、同じ男性が話を聞いた方がいいかもしれないと思ったの。

 その男性は突然、魔術師が現れたから驚いた顔をした。そしてそれが私とラウレータの護衛だと知ると、青ざめていた。

 ……何か悪いことをしたのならば罰を受けるけれど、今回はそうではないのだからそんな風に青ざめる必要はないのだけど。




 そんなことを思いながら私たちは別の飲食店に向かうことにした。

 個室のある場所だと話を聞くのに最適だもの。ちなみにそこは『花びら』の一人が経営しているところなの。予約をしていなかったけれど、すぐに中に入れてくれたわ。



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― 新着の感想 ―
 王都にいるだけの人数で、『花びら』だけの町がつくれるくらいの人数と職種いそう(笑)  どういう事情があったら嫌がる女性をナンパする行動をとるのか…。
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