女性が生きやすい環境づくり ⑫
「ラウレータにそんな風に言われると、やる気が出るわ」
ラウレータにとって、誇れる母親で居たい。正直言って、祖国にいた頃の私は――そういう母親ではなかったと思う。
ラウレータは私のことを慕っていてくれたけれど、自分の意思で動くことなんてなかったもの。過去があってこそ、私だから……、祖国に居た頃の経験も重要だったとは思うけれどね。
「お母様は実現したいことを纏めているって言っていたけれど、纏めた後ってどうするの?」
「そうね。実現するために調整をするわ。何かをしたいと想像し、纏めることも重要だけれど、形にならないと結局夢物語で終わるだけだわ」
「夢物語?」
「ええ。私がやらなければならないのは、現実味のない想像だけではないの。私が叶えられないものをただ口にし続けたら、きっと『知識の花』なんて呼ばれなくなると思うわ」
「えー? お母様はこんなに国のために働いているのに?」
ラウレータは不思議そうな顔をする。
大人びていても、ラウレータは年相応で可愛いなとそう思う。
私は笑みを浮かべながら、ラウレータに説明をする。
「そういうものよ。私の評判が元々悪かったのに、この国で活躍したら周りの見る目が変わったように私が上手く立ち回らなければ失望する人もきっと出てくると思うわ」
「えー……」
ラウレータは私の言葉に不満そうな顔をしている。
私も自分の親しくしている人の評判が反転したら同じような気持ちにはなるかもしれない。でもそういうものだと思う。
「そんな顔しないで、ラウレータ。私が好きでやっていることだから。これでもし失敗したとしても、私は次の挑戦をするわ」
「そっか。私もお母様みたいに、失敗しても何度もやりたいな」
「それがいいと思うわ。私は貴方が挑戦したいことがあるのなら、その夢が叶えられるように背中を押すからね」
「うん! でも私、まだ何をしたいかとか、全然分からないかも」
元気よく答えたラウレータは悩んだような表情をする。まだ小さなラウレータは、これからどんな風な大人になるだろうか?
今でも十分可愛くて、一目を引く。きっと大人になったら綺麗になるだろうなと思う。まぁ、母親としての贔屓目もあるだろうけれど。
「ラウレータはまだ小さいから、やりたいことが分からないのも当然よ。私も同じ年頃の時は将来のことなんて考えてなかったもの」
私の幼い頃のことを思い起こすと、私はただ周りから言われるがまま生きていただけだった。
未来のことを考えることなどなく、ただ言われたままに生きると思っていた。……そんな私が今、隣国でこうやって生きているのは本当にその頃から考えると不思議だなと思う。
「お母様はこれからその纏めているものを進めるんだよね? 私、それ横で見たいなぁ」
「構わないけれど……形になるまでは時間が少しかかるかもしれないわ。調整ばかりだと退屈かもしれないけど」
「飽きたら別のことしてしまうかもだけど……でも私はお母様が頑張っているところを横で見たいなって思うの。これまでもお母様のやっていることを見てきたけれど、全体を通してみておきたいなって」
ラウレータはにこにことほほ笑んで、嬉しそうに言う。
真っすぐにお願いをされると何でも叶えてあげたくなってしまう。親としては甘やかし続けるのはいけないだろうから、その辺は考えなければいけないわね。
「もちろん。ただ連れて行けないこともあるから、その時はお留守番ね」
「うん。そうする。お母様、この資料見てもいい?」
「調整してからね」
ラウレータならば見ても問題はないと思うけど、一応そのあたりは確認を取ってからの方がいい。
私にとって何気ない情報でも、何か特別なものだったりするかもしれない。ラウレータが何か予想外の事に巻き込まれたら嫌だとそう思うもの。
「あとここで見たことは人には話さないようにね」
「うん。分かった。お母様とディオ父様にだけ話すようにするね」
「ええ。それなら大丈夫よ」
まだまだ確認段階。これから形になるか分からない制度についての話だ。だからラウレータには言い聞かせておく。
そのうち私は今、頭の中にある実現したいことを必ず何らかの形にしようとは思っているけれど。
「楽しみ! お母様としばらくずっと一緒に居れるのも、お母様の仕事を見られるのも凄く嬉しい」
にこにこしながらラウレータがそんなことを言う。
私もラウレータを連れて、一緒に過ごせるのが楽しみだなとそう思った。
ラウレータが隣で見ていると思うと、より一層ちゃんとしなければならないとそんな気持ちにもなった。
その後、カウディオが帰ってきたのでこれから進めたいこととラウレータを連れて行くことを告げる。カウディオは私の提案を「実現したら素晴らしいものだと思う。私も手伝おう」とそう言ってくれた。
そして翌日からさっそく私たちはそれぞれ行動をすることになった。




