女性が生きやすい環境づくり ⑦
モートナさんを適度に外に連れ出しつつ、並行して進めているのは王都での住居の準備。あとは今、実家に預けているというモートナさんの子供達の安全を確保すること。
モートナさんは伯爵の傍に子供を置いておきたくないと考え、そして現状離しているそうだ。
それにしても伯爵は子供たちと会えないことをそこまで気にしてはいないらしい。モートナさんの、離縁したいという“我儘”をどうにかすることが第一だと思っているようだ。
……誰かが決意を持って行動しようとしたことが、そんな一言で片づけられてしまうなんてと何とも言えない気持ちになる。
「やっぱり夫は私のことをどうにでも出来ると思っているみたいだわ。こうしてクレヴァーナ様と一緒に出掛けていても私が離縁などしないと思っているみたい」
モートナさんはそんな風に言って苦笑していた。
着実に、離縁をするための準備を進めている。だというのにモートナさんが自分の元からいなくなるはずがないと自惚れているらしい。
……いつまでもモートナさんが籠の中の鳥のようで、自分が手を伸ばせば閉じ込めて置ける存在だと、そんな風にモートナさんを侮っている。
そういうのって正直、好きではない。
だって誰だって自分の意思でなんだって決めていけるものだもの。モートナさんだって、そうやって自身で決めたことを、自分の手で達成することが出来る。
私はそうやって、自分で決めたことを一生懸命行おうとする人を応援するのが好きだと思う。
花びら達だって、そういう子たちばかり。
自分が何をしたいかというのを悩んでいる子を見つけると、きちんと話を聞くようにしているの。
花びらと呼ばれる子たちは徐々に増えているけれど、一人一人の名前と顔はきちんと覚えている。
新しく花びらと呼ばれるようになった子は、私に直接話しかけるのを遠慮していたりもした。そういう子には私から話しかけたりしている。
「それは嫌な気持ちにはなるわね。それよりモートナさんは、どういう家を希望する? 希望通りの家を一先ず用意しようとは思っているのだけど」
モートナさんが何とも言えない表情で、伯爵からそんな風に思われていることが嫌なのだろうなと分かる。話を変えると、モートナさんは楽しそうに笑った。
「子供達と一緒に過ごせれば問題ありませんわ。ただ私は家事なども自分ではやってこなかったので、覚えなければと思いますけれど」
「自分で覚えようという気があるのならば、問題ないわ。私が教えることもできるし、それに屋敷の使用人を一時的に向かわせることもできるもの。モートナさんがお金に余裕が出来たら雇うのもありだもの」
「クレヴァーナ様も家事が出来るのですか?」
「ええ。私は離縁されてしばらくは一人暮らしをしていたから。慣れていないことばかりだったから、一つずつこなしていったの。今は屋敷の使用人たちに家事などは任せているけれど」
私がそう言って笑うと、モートナさんも微笑んだ。
モートナさんがこうして楽しそうに笑っているのを見ると、私も嬉しくなる。
「そうなのですね。そうやってクレヴァーナ様は一つ一つ、出来ることを増やしていったのだなと思うと感心しますの。私もクレヴァーナ様のように出来ることを増やしていきたいですわ」
そんな風に言われて、少し嬉しくなった。
「モートナさんたちのこの後、住まう場所の候補の場所はいくつも探させているけれどその中で条件に合いそうなものを選ぶわね。モートナさんの子供たちの趣味とかもちゃんと聞いて、あとは楽器などを弾いても問題ない家にはするから。モートナさんが王都に来た際は私からも演奏の依頼はするわ」
こうやって未来のことを考えていると、それだけでワクワクするわ。
モートナさんは離縁するなら王都に来て、私の元で学びたいとも言ってくれたの。だから仕事をしながら、そういう学びもするのだって。
もうすっかり離縁する気満々でのモートナさんに思わず笑ってしまう。
「ある程度準備が進んだら、きちんと伯爵と話をしましょう」
「ええ。……その際には夫は逆上するかもしれないけれど」
「二人で話すとそういうことになるの?」
「そうですね……」
「離縁するにしても、モートナさんに悪い印象は与えない形にしたいわね」
「私は離縁出来れば……後からどうにでも出来ると思いますが」
モートナさんはそんな風に言う。
だけど、私としては折角仲良くなった女性が、新しい一歩を踏み出そうとしているのにそういう悪い印象をつけられるのは嫌だもの。
こういうことは、事実がきちんと伝わるようにした方がずっといいわ。
「貴方自身が納得がいく形で未来を歩めるように、離縁というものに悪い印象を与えずに済むようにしたいわ。そうするための方法をきちんと練るから私を信じてその行動をしてくれる?」
私がそう言って笑いかけると、モートナさんも微笑んでくれた。
モートナさんの離縁するための手筈を全て整えたら、そのまま行動してもらおうと私はそう思った。




