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【9/10二巻発売・コミカライズ企画進行中】公爵夫人に相応しくないと離縁された私の話。  作者: 池中織奈
番外編

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女性が生きやすい環境づくり ⑥

 まず手始めにモートナさんの能力を把握することが一番だと私は考える。どういう形で、モートナさんの歌や演奏で生計を立ててもらうにしてもその腕前などを把握するのは重要だもの。



 そういうわけで下準備のためにモートナさんと一緒に出掛けることにする。



 モートナさんの夫である伯爵は、私がモートナさんを連れ出して出かけようとするだけで一瞬だけ顔をしかめていた。外面は良いようだから、この国で『知識の花』と呼ばれている私に悪い印象を与えないためにか承諾はしてくださったけれど……正直言ってあまり良い気分にはならない。

 普段の仮面を被った様子を知っている人は、ちょっとした違和感はあっても優しい人だからとそう思って気にしないかもしれない。だけどモートナさんの話を聞いた後だと、そういうちょっとしたところに本性が隠されているというか、モートナさんが離縁を決意した要因が潜んでいるのだろうなと思った。




「こんな風に出かける許可をもらえるのも嬉しいわ。私が離縁のことを口にしてから特に、夫は私が余計な行動をしないようにと監視しておりましたの」

「それは本当に嫌ね。結局どんな未来を歩みたいかは本人が決めることで、誰かに制限されるようなことではないと思うのだけど……」

「それはそうですけれど、結局、周りから否定をされてしまえばクレヴァーナ様のように自分の意思で立ち上がることは難しいのですわ」



 ――そう言われて、それは確かにと思った。



 私自身は自分の手で自分のことを証明してみせると、そう腹を括った。だから周りに何を言われてもそれを成し遂げることを決意した。

 だけどモートナさんのように行動を制限される状況に陥るというのは当然あり得るのだ。

 せめて大きな決断をしようと決意した人が、周りにそれを邪魔されずに済むような環境を整えたいなとは思った。背中を押す手助けというか、そういうのはやっぱり必要だと思うもの。



 私はモートナさんを連れて、詩や音楽関係のお店や披露される場に向かった。



 そういう実際に働いている人たちを見ることで、モートナさん自身が何をしたいかも見えてくると思ったから。あとはモートナさんがどれだけそれらのことを出来るのかも場所を借りて見せてもらったりする。




 正直、私自身はそれらのことが全くといっていいほど出来ない。ロージュン国でも貴族令嬢は楽器を嗜んだりしていたが、私はそういうのを習う機会はなかった。

 というか言語に関しては自分から書物を読んで学んできたけれど、音楽関連のことにはそこまで関心がなかったのかやってみようとはならなかったのよね。




 ああ、でもモートナさんの演奏している様子を見ると、楽器を習うのも楽しいかもと思ったからやってみようかしら? だってあまりにも楽しそうにモートナさんは詩や歌を披露し、楽器を弾くのだもの。

 結婚してからずっと伯爵に制限をされていたからなのかもしれないと思う。

 これまでずっとやらないようにと言われていた自分にとって大切なこと。それを思う存分してもいいと言われたら人はこれだけ良い顔をするのだなと思った。

 ちなみに私一人だけでは良し悪しは判断できないので、実際にそういう職業に就いている方々にも見てもらったわ。




「とても素敵だと思います。澄み渡る声で聞いていて心が躍ります」

「しばらく触っていないとお聞きしてましたが、それでもこれだけ弾けるのですね」



 彼らはモートナさんの披露したものを聞いて、にこにこと笑いながら言った。



 もちろん、ただ褒めるだけではなくこうした方がいいなどというアドバイスなどもしていた。私が接したことのない世界で、音楽を嗜んでいない私も楽しくなってしまった。

 それになんというかモートナさんが生き生きとした表情で彼らと話していて――そういうのを見るととてもいいなと思った。



 やっぱり暗い顔をしているよりも、こういう表情をしている方がずっといい。私はこうやって生き生きとして、自分らしく輝いている人を見るのはとても好きなの。



 初めて会った時のモートナさんは下を向いて、暗い表情を浮かべていた。これからのことを考えて、不安を隠せないといった様子だった。

 そんな彼女がこうして、笑っている。




 結婚生活中に長い間制限されていたからこその反動とでもいうのだろうか。

 私が離縁されて、初めて自分の意思で全て決めることを心から楽しんでいたように――きっと、モートナさんも同じような感覚なのだろうかと思った。



「私、こんな風に楽しいことばかりの外出も久しぶりでしたの」

「離縁を申し出る前から、伯爵は貴方の行動を制限していたの?」

「そうですわ。……自分にとって好ましくない相手と私が親しくしようとするのを嫌がっていました。それに私が外出するのも夫は嫌なようで、許可がないと出られませんでしたわ。いざ、外に出ても夫にとって妻として望ましくない行動を私がしていると判断すると様々な言葉をかけられました。私はそういう結婚生活が当たり前だと受け入れていたけれど、こうやって外出を楽しむと、嫁ぐ前はこんな風だったなと思いました」




 本当に聞けば聞くほど本当にモートナさんが最初に言っていたように、伯爵は妻を自分の所有物と考えているのだろうと思う。自分の物が自分の望まないように動くことが気に食わない。……モートナさんを自身の理想の妻という形に押し込めようとしているのだろうか。



 そこにモートナさんへの愛があるのかないのかは知らない。けれどもしモートナさんを少なからず思う気持ちがあったとしても本人が嫌がっている以上は、駄目だと思ってしまう。もちろん、そういう関係性でも本人たちが納得しているのならいいかもしれないけれど……。


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― 新着の感想 ―
[一言] どんな理由があるにせよ稀有な才の持ち主を潰す所でしたし、庇いたてなんぞ誰もしたく無いでしょうね
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