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【9/10二巻発売・コミカライズ企画進行中】公爵夫人に相応しくないと離縁された私の話。  作者: 池中織奈
番外編

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女性が生きやすい環境づくり ⑤

 それからしばらくして、私の元へモートナさんから連絡がきた。


 それから私はすぐにモートナさんに会いにいった。彼女がどういう選択肢を取ろうとも、私は出来る限りの手助けはするつもりである。もちろん、本人にも頑張ってもらうつもりではあるけれど。




 伯爵に関しては私がモートナさんを説得するためにきたと勘違いされているけれどね。

 私は一言も説得の為に訪れているとは言っていないし、きちんとモートナさんの意見を聞いた上で判断すると言っているのだけど……。



 やっぱりモートナさんの言うように、伯爵は自分の考えこそが正しいと思い込んでいるのだと思う。後は私に対する侮りがあるように見える。

 ……『王弟の愛する知識の花』と呼ばれるようになって、こういう風な視線は向けられることは少なくなっていたと思う。

 それでもこういう人はいるんだなと少し何とも言えない気持ちにはなった。




「モートナさん」

「クレヴァーナ様!」



 モートナさんの元へと向かって声をかけると、彼女の表情と声はとても明るかった。

 なんだろう、以前訪れた時より何もかも違う。きっと彼女が大きな決断をしたからなのだろうなというのは分かる。




 私はこうやって生き生きとした人を見るのが好きだ。だってとても綺麗だと思うし、見ていて楽しい気持ちになる。

 大きな決断をして、そのために行動を起こす人というのはそれだけ輝いていて、どんな風に変わっていくか分からなくて――だからこそ、見ていて楽しい。



 きっと私の自分を証明するための行動も、周りから見たらこんな風に見えていたのかなと想像する。

「クレヴァーナ様、私は離縁をしたいの」

「そう、決意したのね」

「ええ。クレヴァーナ様の言う通り困難な道だとは思いますわ。それでも私は夫と一緒にこのまま未来を歩むことを良しとしません」



 はっきりと、躊躇せずにモートナさんはそう言い切った。



 ただ衝動的に離縁を求めているのではなく、長年の積もりに積もったもので本気でそれを望んでいるのだろう。



「それでどういう未来を想像しているかしら? 誰かと再婚する道? それとも一人で子供を育てていけるのならばそうしたい? 貴方がどうしたいかによって私の背中の押し方も変わっていくの」




 私はそう言ってモートナさんに向かって、ほほ笑む。

 周りがこうするべきであるとか、そういうことを押し付けることは結局本人の幸せにつながらない可能性もある。

 結局必要なのは、彼女自身がどうしたいかなのだから。




「私は出来れば……しばらく結婚はしたくないとそう思っています。実家や周りはきっと……離縁するなら誰かと再婚をと勧めてくると思います。女一人で生きていくことなど出来ないとそういうでしょう。でも……私は親が決めた相手と結婚して、今の状況ですの。だからもし再婚するとしても、クレヴァーナ様のようにご自身の意思で選びたいですわ。離縁出来るだけでも十分ではないかと言われるかもしれない。それでも私は……貴方のように自分の意思で歩き、進んでいきたいと思いました」



 もう既にモートナさんは決断してしまっている。

 彼女はきっと止まらず、その目標を叶えるために歩き続けるだろう。


 それに私に対して憧れとか、好意的な感情を向けてくれることは嬉しいなとも思う。




「そうしたいのならば、それを叶えましょう。私は貴方が自分の望みを叶えて、輝いている姿を見たいと思うの。モートナさんは何か好きな物はあるかしら?」

「好きな物?」



 突然私が話し始めた言葉を聞いて、一瞬驚いた顔になる。突然、こういうことを聞かれるとは思っていなかったのだろう。



「こういうのはね、立ち止まらずに行動するのが一番いいのよ。それにね、これから貴方が生きていくためにはお金を稼がなければならないでしょう? そしてそれは貴方にとってやりがいがあるものの方がきっといいと思うの。まぁ、貴族夫人として生きてきたモートナさんが働くとなると想像はつかないかもしれないけれど――子供達を養い育てるためには何かしらのお金を稼ぐ手立ては必要だわ」




 もちろん、すぐには形にならないだろうというのは分かる。だけれども誰かに寄りかかり、その人が倒れたら自分も倒れてしまうなんて状況は望ましくないのだ。




「好きな物……私は、詩や歌、それに楽器の演奏も好きですわ」

「そうなの?」

「ええ。子供のころから両親が習わせてくれていたの。結婚する前は人前で披露したこともあるわ。とはいっても……ちょっとした身内の集まりですけれども」

「結婚してからはやっていなかったの?」

「ええ。……夫が、妻がそうやって目立つのを嫌がるから。はしたないからって、そんな風に言われたわ。貴族夫人としては確かに夫を立てるべきとされているし、夫人が夫よりも目立つ行動をすることは……望ましくないとはされているわ。でも考えてみると私はまた楽器を弾いたり、歌ったりしてみたいと思うの」




 そう口にして、まっすぐにこちらを見るモートナさんを見て私は笑った。




 モートナさんが楽器を弾いたり、歌を披露したりする姿を私は見てみたいと思う。それに、そういうことが出来るのならばお金を稼ぐ術は幾らでも考えられる。

 これまでの積み重ねや経験がこうやって将来へと繋がっていくのって見ていてワクワクするわ。



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― 新着の感想 ―
[一言] それって自分が目立たなくなる上に、自分よりも優秀な事から他者の目を逸したいからじゃないですかねぇ? 貴族的な意味ではなく
[一言]  歌や演奏がはしたない? 意味がわからんな。自分より目立たれたくないだけとしか…。
[一言]  書籍化おめでとう存じます。  奇しくも発売日10月10日は、世界メンタルヘルスデー♢ 
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