女性が生きやすい環境づくり ②
集めた情報の中では、様々なものがある。表面上の情報では確かに伯爵家の夫婦事情は良いものらしい。気になる情報に関しては幾つかあるけれど、集めた情報だけを見ると離縁を申し出るほどではないとそんなふうに断定する人はいるのかもしれない。
ただ人によってはどんな物事に対してもどんなふうに感じ取るかは異なる。
おそらく離縁を申し出るほどの感情の揺らぎが何かしらあったのだろうとは想像がつく。
私はなるべく、彼女自身の考えを否定することなく話を聞き、自分の意見を口にしようとそう思った。
「私はクレヴァーナのそういう性格が好きだなと思うよ」
「そうなの?」
「ああ。クレヴァーナは人がやろうとしていることを否定しようとしないだろう。寧ろ誰かが何かをしようとすることを応援している。そういう所に救われている人はきっと多いだろう」
「それなら私は嬉しいと思うわ。誰かが私の言葉で、勇気を出してくれたり、前に進もうとしてくれたら――それだけで嬉しい」
私がそう言って笑えば、カウディオも笑ってくれた。
「それにしても……伯爵夫人は話し合うではなく、離縁を申し出たというのが気になるな」
「それはそうね。信頼関係のある夫婦であるならば、まずは話し合うのではないかと思うわ。我慢できないことがあったとしても、話せば分かり合えることもあるだろうから。それをせずに夫人が離縁を望んでいるのよ。きっとよほどの理由があるのだと思うわ」
「……クレヴァーナはそういう状況になるときはどういう時だい?」
「私の場合だと……そうね、好意がなくなったとそう感じ取ったらかしら。あとは浮気も嫌だと思うわ。私は貴方がもし他の誰かとそういう仲になったり、愛人を作ったりしたら考えると思うわ」
カウディオの問いかけにそう答える。
私はカウディオのことが愛おしいと思っている。優しくて、私のことを受け入れてくれて、一緒に居ると落ち着く。
「絶対にそんなことはしない。私は君に飽きられないように頑張るよ。もし、私に何か不満があったらすぐに言ってくれ」
「ふふっ、カウディオも私に対して直してほしい点があったら言って。話し合いをして解決しましょう。我慢はしない方がいいもの」
私がそう言って笑えば、カウディオも笑う。
私は自分を証明すると決めてからは、特に我慢はしていないと思う。寧ろやりたいことをやりたいようにやらせてもらっている。
「クレヴァーナが美しい装いで外交やパーティーに出かけるときは、心配になるかな」
「心配?」
「ああ。護衛が居ることも分かっているし、問題はないと分っているが……それでもクレヴァーナは目立つから、変な男に目をつけられたりしないかとそれは常に心配しているよ」
「そうね。私もなるべく面倒な方に目をつけられないようには気を付けているわ。それでも私に嫌な視線を向けてくる方もいるけれど……」
「私はクレヴァーナが誰か別の異性に惹かれたりしないかも時折心配にはなるよ。クレヴァーナは様々な場所を羽ばたいているから」
カウディオは私と二人きりの時、こうして年相応な様子というか、年下の男の子らしい部分を見せてきたりする。親しくなったからこそ、こういう姿を見せてくれることが嬉しい。
「私にとって貴方が一番だから、他の方のことなんて目に入らないわ。私はカウディオに相応しい私であり続けたい。そう思っているの。私は貴方が浮気したら本当にどうしようもないほど悲しくなって、許せないなとそういう気持ちでいっぱいになると思うの。カウディオが思っているよりもずっと私は重たい気持ちを抱えているのよ?」
私がそう言って笑えば、カウディオも微笑んだ。
私はカウディオが私を愛してくれていることを知っている。昔の私だったら、もっと自分に対して自信を持てなかったと思う。
今の私は、自身を証明する行動で周りに認められて自信がついた。
私は自分がこんなに重たい感情を抱くことがあるなんて、カウディオに出会うまで知らなかった。
私はカウディオが例えば、他の誰かを愛した時、悲しくなると思う。
本当にその人を愛してしまって、誠実に別れをするなら別だ。でもそうではなくて……裏切りだったら……。私は多分、徹底的に証拠を集めるだろう。もちろん、最初にカウディオ自身に聞くだろうけれど。
そういうことが起こったら、関係性は確実に変わっていくだろう。
そういう夫婦としての関係性が変わっていく何かがきっと、伯爵夫妻には起こったのだろうな。
それから数日後、私は夫人に会うことになった。
伯爵やその周りの人達にはどうか説得してほしいと言われたけれど、この前と同じく私は夫人の話を聞いてから判断すると伝えた。
それを聞いた伯爵は不快そうな顔を一瞬浮かべていた。
……その一瞬の表情を見ただけで、少しだけ何とも言えない気持ちになった。すぐに笑顔にはなったけれど、私が夫人を説得しないかもしれないというのが気に食わないのだろうか。
周りの人たちはもしかしたら気づいていないかもしれない。だけど、そういう一瞬の表情を見ていると、少しだけ気になった。
離縁を申し出た夫人は、伯爵が承諾しないのを知ると別館にこもっているそうだ。
……伯爵はそのうち諦めるだろうと思っているようだけど。




