ラウレータの世界 ⑧
隣国で活躍しているお母様がこの国へとやってくる。
「ねぇ、レナリ。お母様がね、私に会いたいと望んでくれているのだって」
私はその事実が嬉しくて、思わず笑ってしまう。
それはお父様が私に教えてくれたことだ。
お母様がこの国にやってくるというのを聞いた日からずっと私はそわそわしていて、落ち着かない様子になった。
悲しいことに家庭教師とか私の周りにいる人達の中にはお母様が私に会いに来ることを嫌がっている人もいる。私に直接、会わない方がいいと言ってくる人も居た。そういう人たちのことはお父様に報告をしておいた。
お父様はそういう人たちが周りに沢山いることに驚いた様子だった。
……お父様は周りのことを信用している。
幼い私のことよりも、そちらを信用していたりする。昔からの付き合いだからなのだろうけれど、お父様って本当に昔からそうなのだ。
「ご当主様はなんというか……融通が利かないような方ですね。こんなことを言ったら失礼かもしれませんが」
私とお父様のやり取りを後ろで控えて聞いていたレナリがそんなことを言う。
でも確かにそうかもしれない。
お父様は……あんまり器用な人ではない。元々当主になる予定ではなかったというのは聞いたことがある。どちらかというとおそらく、戦うことの方が好きなのかもしれない。
周りの人のことを大切にしていて、だから信じている。
それって悪いことではないけれど、もっと私の言葉も聞いてくれたらなとは思う。
「そうかも。お父様、そういう性格だから」
「そうなんですね……。それにしてもクレヴァーナ様は隣国で王弟殿下に愛されていて、そしてご当主様はキーリネッラ様という新しい奥方を迎え入れた。お二人とも互いに大切な方が出来たことは良い事ですね」
「うん……。それはそう思う」
互いに大切な人が出来ることはきっと、素敵なことではあると思う。
ただ私はお母様のこともお父様のことも大切だったから、二人が仲良くなれたら……とは少しは考えていた。
それは叶わないって分かってるし、噂で聞こえてくるお母様は生き生きしていて、楽しそうだ。そしてお父様はリネ母様と出会ってから見たことない表情を浮かべている。
だからいい事なんだろうなとは思う。
それにしてもお母様と会えると考えると本当に楽しみで仕方がない。
「ねぇ、レナリ。お母様と会うのはどんな格好がいいと思う? 私ね、折角だから一番おめかししてお母様の前に立ちたいの!」
折角久しぶりにお母様に会えるのだ。
だからこそ最高の私の姿でお母様と会いたいと思っているの。
そう思って話を変えれば、レナリはくすくすと笑う。
「クレヴァーナ様はきっとどのような恰好をしていたとしてもお嬢様と会えるのを喜んでくださると思いますよ」
「そうかな?」
「そうですよ。だって子供を大切に思っている母親は、どんな姿でも子供を慈しむものですから」
レナリがそう言って笑ってくれる。
そうだと嬉しいな。
お母様が私のことを大切に思ってくれてたら、私と同じように大好きって気持ちを抱えてくれていたら――うん、それだけで幸せだと思う。
私は、お母様のことが本当に大好きなの。お母様と久しぶりに会えると思うとドキドキして、そわそわして――どんな姿でもお母様が私を受け入れてくれるとしてもやっぱり私の一番良い姿を見せたいって思った。
だから一生懸命ドレスや髪飾りなどを選ぶ。
ドレスはお母様が居た頃のものだと流行外れだって言われたから新しいものにする。
お母様と再会出来る場所って王城なんだって。
私は王城に行くのは初めてなの。でも王族に会うことよりも、お母様との再会の方が緊張して、私の頭を大きく占めている。
髪飾りとかに関してはお母様が居た頃にも身に着けていたものをあえて選ぶ。
靴に関しては流石にどんどん足のサイズが大きくなってるから、新しいものにする。
まずは試着をしてみる。
姿見の前でくるりっと回って、自分の姿を確認する。
いい感じだと思う。こういう恰好だと、お母様は可愛いって言ってくれるかな?
お母様と会って、どんな話をしよう? 離れている間のことかな。私がお母様がどんなふうに過ごしているかとか、色々と聞いたら沢山お話をしてくれるだろう。
お母様と話が出来ると思うだけで、嬉しい。
そんな気持ちでずっと過ごして、お母様と会える日が来た。
私はお父様とリネ母様と共に、王城に上がった。お城は本で見たよりもずっと大きく感じた。本にね、お城の絵が描いてあってどのくらい大きいかは載っていたの。でも実際にこんなに大きいなんて思ってもいなかった。
ここでお母様に会えるんだと思うと、ずっと胸がどきどきしていた。
「お母様っ!!」
そして、王城でお母様の姿を見た途端、私はお母様のことしか考えられなくなって飛びついた。
久しぶりに見るお母様は相変わらず凄く綺麗だった。ううん、もしかしたら昔よりずっと綺麗かもしれない。




