ラウレータの世界 ⑥
「どうしたの?」
私はなんだろうってワクワクしながらレナリに問いかけた。だってお母様が凄い人だって分かったっていうなら、何かが起こったのかなって思ったから。
「お嬢様のお母様――クレヴァーナ様が、隣国で活躍されているそうです」
「本当!?」
私は思わず大きな声をあげてしまう。
レナリが教えてくれたことが嬉しかった。嘘じゃないよね? 本当の事だよね? と期待して前のめりになってしまう。
そんな私の様子に、レナリはおかしそうに笑った。
「お嬢様は本当にクレヴァーナ様のことが大好きなのですね。嘘ではないですよ。私の耳にも入ってくるぐらいに、クレヴァーナ様は活躍されているみたいです」
「どんなふうに? お母様は今、どうなさっているの? お母様の凄さを皆が知ってくれたんだよね?」
「落ち着いてください。お嬢様。私が知っている話でよければ幾らでもお伝えしますから」
レナリにそう言われて、私は深呼吸をする。
こんな風に一気に問いかけても、レナリを困らせてしまうだけだもんね。
私が落ち着いたのを見て、レナリはお母様のことを教えてくれる。
「クレヴァーナ様は、『王弟の愛する知識の花』と呼ばれているそうですよ」
「おうてい?」
「王様の弟ですね。隣国であるスラファー国の国王陛下……王様の弟君とクレヴァーナ様は仲良くしているようですよ」
私は一生懸命勉強をしていて、だから国王陛下が一番偉いこととか、貴族の爵位とかは知っている。でも王弟という単語はぴんと来ていなかった。王様の弟さんが、お母様と仲良くしている?
お母様は此処に居た時、あまり誰かと仲良くしていなかった。そもそも皆、お母様から距離を置いていたからというのもあると思う。そんなお母様が素敵な呼び方されてるのって、凄くワクワクする。
「そうなんだ」
「ええ。そうですよ。クレヴァーナ様は、スラファー国をその知識で発展させているようです」
「お母様は凄く物知りだもん。それに綺麗だから、お花にたとえられるの凄くいいと思うの」
お母様は本当に沢山のことを知っていて、とても綺麗。だから悪い呼び名をされるよりも、ずっとそのお花の呼び名の方がぴったりだと思う。
寧ろお父様や周りの評価がおかしいだけで、隣国での評価の方が正しいものだって思う。
「国に認められて、活躍されているのですから……本当によっぽどすごい方だというのは分かります。クレヴァーナ様はその知識を周りの人々に授け、彼女を慕う人たちは花びらと呼ばれているらしいですよ」
「そうなんだ。凄く素敵だと思う!」
私は花が好き。お母様と一緒に庭で、花を見るのも好きだった。可愛くて、見ていて楽しい気持ちになるから。
だからお母様がそういう呼び名されているのが余計に嬉しくなる。
「ねぇ、お母様はどんなふうに活躍してるの? きっとすごいんだよね?」
「私はそこまで詳しい話を聞けているわけではありませんが、聞いた話によると……新しい魔術式を発表したり、災害面での対策と対応で大きな貢献をしたり、外交で活躍したりされているそうですが……」
「そうなんだ! やっぱり私のお母様は凄いんだね!」
「えっと、お嬢様、あくまで私が聞いた噂なので、実際の活躍はわかりませんからね?」
「うん。それは分かってるよ。でも、そういう噂でも私はお母様がどうやって過ごしているか知れるだけでも嬉しいもん。皆ね、お母様の話をしないから、こうやって今のお母様の話を聞けるとね、嬉しいなって思うの」
本当のことかどうかは分からなくても、お母様のことをこうやって聞けると私はただ嬉しいなと思う。
実際にどうだったかはお母様にまた会えた時に聞けばいいもん。それにお母様の良い噂が聞けるなら私はそれだけでにこにこしてしまう。
「それにしても……クレヴァーナ様は魔術が使えないと噂ですが、魔術式に関する噂はどういうことでしょうか……?」
レナリが不思議そうな顔をしているので、私は自慢するように教えてあげる。
「お母様はね、魔術を確かに使えないよ。でもね、お母様はそれでも魔術がどういうものか知っているの! 私はね、なんとなくで魔術を使ってばっかりなの。周りの人もね、ちゃんとそういうの考えて使っている人っていないって思うの。でもお母様は実際に魔術を使えなくてもね、凄く頭がよくて、どうやって魔術を使うかって分かってるの!」
私がそう言って口にすれば、レナリは益々驚いた顔をする。
「……それは凄まじい才能ですね。どうしてそんなクレヴァーナ様が、この国では名が広まってないのでしょうか?」
「分かんない。でも、お母様は本当に凄いよね」
お母様は凄い人なのに、どうしてお母様の凄さを周りが分かってないのか知らない。だけどレナリがお母様を凄いって言ってくれたのが嬉しくて、私は笑うのだった。




