休日のおでかけ
「クレヴァーナ、これから出かけないか?」
カウディオからそんな風に誘いをかけられた。
私とカウディオが結婚をして、そしてラウレータを引き取ってからしばらく経ったある日のことである。
「行きたいわ」
私もカウディオも忙しく動いている。やりたいことも、進めていることも沢山ある。だからこそそれらに時間を使おうと思えば幾らでも使える。とはいえ、私達は仕事だけを進めて家族を蔑ろにする気はなく、時折休日を作っている。
ラウレータは習い事などもあるので、今日はお留守番していると言っていた。この国にやってきてから、より一層ラウレータは魔術を学ぶことに意欲的になっていた。
何らかの心境の変化でもあったのかもしれない。何にせよ、魔術を学ぶラウレータはとても楽しそうなので私は嬉しく感じている。
それから着替えを済ませて、カウディオと一緒に出掛けた。
カウディオが連れて行ってくれたのは、期間限定で開催されている展示だった。今はもう滅びてしまったとある国に纏わるもので、私はその国にも興味を持っていた。昔のことで、文献もあまり残っていない。どうやら恐ろしい魔物が現れ、その結果、滅びの道をたどったらしいというのは記載されていた。
国が一つ滅ぶなどという出来事が起きたのに、それに関する情報が残っていないというのはそれだけ不思議なことだとは思っている。
それにしても私が興味を持っているといったことを覚えていてくださったんだなと嬉しい気持ちになった。
「カウディオは、この国の滅びに対しての本は読んでる?」
「読んでいるよ。数少ないからこそ、読んだ時に興味深い」
「私もそう思うわ。なぜ滅びたのか、原因となった魔物がどれだけの脅威だったのかを知っておきたいわ」
同じような危機に陥ることは滅多にないとは思っている。だけれども、もし似たようなことが起きた時に対応出来るようにはなっていたいなとそう思っているのだ。
それに私は知らないことを知りたいと思う。
だから、そういう滅びた国について知ることが出来ればきっと楽しいだろうから。
展示されているものは、割れた食器だったり、衣服だったり――その国で生きていた人たちがどんなふうに暮らしていたかの軌跡が残されている。
私たちは魔道具を使って、お忍びで此処に来ている。
私もカウディオも国内では有名だから、こうやってお出かけをしただけでも騒がれてしまったりする。
私の評判はすっかり、『知識の花』として広まっている。
周りが私のことを慕ってくれていることは嬉しい。けれど常に騒がれてしまうのは少し疲れてしまうから。
カウディオと並んで歩いて、一つ一つ展示品を見て回った。
こうやって見たことのないものを見て、新たな発見が出来るのはなんて楽しいのだろうか。
滅亡した国の生き残りは周辺諸国に流れたと聞いている。確かに展示されている食器や衣服類などに描かれている模様が他の国に伝わっているなとは思う。
今につながっているものを見つけるのも楽しい。
「過去に生活していた痕跡がこうやって残されているのは凄いことだわ」
「楽しそうだね、クレヴァーナ」
「ええ。とても楽しいわ」
「クレヴァーナの名も、後世に残されていくはずだよ」
「そうかしら?」
「そうだよ。それだけの活躍を君はしているからね」
にっこりと笑ったカウディオにそんなことを言われる。
私の活躍が後世へと残っていくなんて想像は出来ない。私はただ自分を証明することを続けているだけだもの。でもそうか、私のやっていることは後世にも残っていくのか。私が寿命を終えた後も、今、私達が展示品を見ているように……いつか、私の遺品も展示されたりするんだろうか? そう考えると、少し楽しそうだなとは思う。ああ、でも個人的なものが展示品になるのは恥ずかしいかもしれない。
展示品を見て回った後に、二人で王都を歩く。
手を繋いで、一緒に歩いているだけで心が躍る。
「ラウレータにお土産を買って帰りたいわ」
「そうだね。何か買って帰ろうか」
そんな会話を交わして、目についたお店に入る。
スラファー国の王都は何度歩いても楽しい。毎回、王都を歩くたびに新しい発見もあったりする。
ラウレータへのお土産を買う時に、カウディオは私にも物を買ってくれた。こうやって出かける度に思い出の品が増えていくのはとても幸せなことだなとそう思えてならない。
ラウレータにお土産を渡すと、とても喜んでくれていた。こうしてラウレータを引き取ってから私は娘に沢山贈り物をしている。離れている間に渡せなかったものを渡したのも喜んでくれていた。
とはいえ、甘やかしすぎても娘のためにはならないのでそのあたりはきちんと躾をしようとは思っているけれど。
ラウレータが喜んでくれているだけで、私はとても嬉しい。




