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【9/10二巻発売・コミカライズ企画進行中】公爵夫人に相応しくないと離縁された私の話。  作者: 池中織奈
本編

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王弟の愛する知識の花 ⑤

「お母様っ!!」



 目の前にまず飛び込んできたのは、鮮やかな黒色。

 愛らしい声と共に、飛び込んできたその存在に私も飛び出す。



「ラウレータ!」




 そしてその小さな体を抱きしめる。私が抱きしめれば、ぎゅっと抱きしめかえしてくれる。

 私の腕の中で、「お母様に、会いたかったの」といって泣いているラウレータに胸が痛くなる。



 私がラウレータと抱きしめあっているのを、その背後から見ている元夫とその再婚相手の姿が映る。

 彼らは驚いた顔をしていた。元夫であるデグミアン様がこんな顔をしているのは初めて見た。



 私は一度目の結婚期間中、元夫と関わることはあまりなかった。デグミアン様は、公爵家を継いだばかりで忙しそうにしていた。それにその周りにいた者達は私という悪妻がデグミアン様の妻であることを認めていなかった。



「君は……そんな顔が出来たのか」



 私が考えていたのと同じことをデグミアン様は感じていたようだ。……私達夫婦は、互いに歩み寄ることをしてこなかった。だからこそ、互いにこういう表情を見るのは初めてだと思うとなんだかおかしく思えた。




「それはお互い様です。私もデグミアン様がそんな風に表情豊かに驚かれるとは思いませんでした」



 私はラウレータを抱きしめたまま、デグミアン様の方を向いて言う。



「……そうか。君の噂が、事実無根なものだったことを知った。すまなかった」

「いえ、私こそ……その状況をどうにかしようとは全くしていなかったので、その点は申し訳ありませんでした。もっと行動していればきっと違ったでしょうから」




 気まずい雰囲気だ。デグミアン様は色々と私に対して思う所はありそうだった。そういう視線で見られても、正直私はそこまでの感情を抱いていない。私にとって元夫は過去のことでしかない。

 後ろにいる再婚相手の女性が不安そうにしているから、そういう態度はやめてほしいとは思う。もしかしたら後悔などがあるのかもしれないけれど、そういう一度目の結婚を経験したからこその今の私が居るのであまり気にしないでほしいと思う。私は今、自分のことが好きで、幸せを感じているから。




「デグミアン様、ラウレータが望むのならば――、私のところで引き取ることは出来ますか?」



 私がそう問いかければ、デグミアン様は驚いた顔をした。



「ラウレータを引き取る?」

「はい。この一年、私が活発に動いてきたからこそ悪評のあるクレヴァーナ・シンフォイガではなく、私自身の評価は上がってきていると思います。だけど、この国では違うでしょう? 私の影響力はこの国ではまだ小さいと思います。寧ろ、私の噂を信じられずにいる人も多いでしょう。そういう環境に私の娘であるラウレータが居るのは大変だと思います。それに……私自身がラウレータと一緒がいいと思っています」




 他の国に比べて、この国にはまだ私に対する悪意のある噂がはびこっている。噂の大元であるロージュン国内では、ずっと昔から私に対する噂が流れていた。それは他の国に比べるとずっと根深いものだ。

 私は貴族たちの通う学園になんて通ったことはなかったけれど、ラウレータはそういう場所にもいくだろう。……その時に、この国にいたままだと大変かもしれないなとは思っている。




「……それは確かにそうだな。ロージュン国ではまだまだ君の噂は多すぎる」



 デグミアン様はそう口にする。



 私が自分の存在を証明すると決めてまだ一年しか経っていない。その間に私は沢山の行動をして、実績を上げてきた。とはいえ、私の悪評を信じている人はまだいる。私の評価は覆ってはいるけれど、全員が全員、私のことを認めているわけではないのだ。

 この国に残ったままだとラウレータは嫌な思いをすることにはなってしまうだろう。




「ラウレータが望めば、引き取りたいです。もちろん、デグミアン様と会わせる機会も作ります」



 私がそう言えば、デグミアン様は考えた様子を見せて頷いてくれた。



「ラウレータ」



 私はまだ泣いていて、私達の話なんて聞いていない娘に話しかける。



「なぁに?」

「ラウレータはこれから、何処で生きていきたい? お父様のところ? それとも私のところ?」



 真っすぐに目をあわせて、そう問いかければラウレータは一瞬驚いた顔をする。



「それって、お母様と一緒に居られるってこと?」

「ええ。貴方がそうしたいなら。その場合は……この国ではなく、今、私が暮らしているスラファー国へと向かうことにはなるわ。そして今の生活とはがらりと変わってしまうことにはなるの。だから、そのあたりはちゃんと自分の気持ちに正直にね」



 ラウレータに分かりやすいようにそう告げる。



「お母様、私は――」



 そしてラウレータは答えた。


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