王弟の愛する知識の花 ②
――愛しい人からの愛を十分に注ぎ込まれて、その結果、美しく咲き誇った。
――その才能が王弟の隣だからこそ、開花した。
――愛する人の傍だからこそ、彼女は美しく咲き誇る。
そういう、恥ずかしい噂がささやかれている。これはある意味、意図的に流されているものでもあるようだ。
……私とカウディオ殿下がそういう仲であることを広めることも一つの目的のようだ。
この一年で私は目立ちすぎたから。そういう仲であると広めていた方が私を守るためになるからということらしい。あと人はこういう物語性のあるロマンチックな話が好きだ。私もそういう話を聞いたら、素敵だなときっと思うから。
「『クレヴァーナの花びら』たちも大活躍しているはね」
「はい。皆、活躍してくれていて、とても嬉しいです」
『王弟の愛する知識の花』という呼び名をされている私が、言語や他の知識も含めて教えた生徒たちのことは花びらと呼ばれているのだ。
なんというか、凄くおしゃれな呼び名だと思う。
彼らは嬉しいことに、私に連なる者として『クレヴァーナの花びら』と呼ばれていることを誇りに思っているらしい。最初は私に対して様々な思惑がありながら学びに来ていたというのに、純粋に慕ってくれていることが嬉しいとそう思う。
言語以外に関しても魔術式や魔道具作りに関する生徒などもいて、そうやって生徒が増えていくことは嬉しいことだった。
ただそうやって私と私の生徒たちの名が広まれば広まるほど、私に教わりたい人は増えていく。
そうなれば全員に教えることは難しい。最初はそういう人たち全員に教えられたら……と思っていたけれど、それは難しいので『クレヴァーナの花びら』になるための試験のようなものが行われることになった。それを通過した人と、私が直接教えたいなと思った人には教えるようにしている。
私の花びらと呼ばれる方たちも名を広めていて、花びらから教われることも誉れのように思われているようだ。
私の手が届かないところを、彼らが対応してくれる。
私は一人しかいないから、一人ですべてを対応することなんて難しい。それが出来るような天才もいるかもしれないけれど、私はそうではないから……周りの助けをかりながら生きていく。
「クレヴァーナ、お疲れ様」
友人たちと話をしながら作業を進めているとカウディオ殿下が迎えに来られた。
周りから温かい目で見られながら、私とカウディオ殿下はその場を後にする。
「一つ話があるんだ」
カウディオ殿下からそう言われて、何の話だろうと不思議に思う。
私たちは王城の空き部屋で会話を交わすことにした。
「クレヴァーナの祖国であるロージュン国の王族が君に会いたがっている」
「そうなのですか……。彼らは私のことに気づいたのですね」
「ああ。寧ろ気づくまでが遅かったというべきか……。あの国に対して情報操作はしていたが、スラファー国の『知識の花』がクレヴァーナ・シンフォイガと同一人物だとは中々結びつかなかったらしい」
私が自由に動くためにも、下手に祖国からの介入があると厄介だということは分かっていた。だから、そういう風に情報操作はしてもらっていた。私が活躍するようになってからは、私のことを“クレヴァーナ・シンフォイガ”というよりも“スラファー国のクレヴァーナ”として認識する人の方がずっと多くなっていた。
だから気づくのが遅かったのかなとは思う。
あとはこうしてスラファー国にやってきたから思うけれど、祖国は実力主義というか、戦う力のある人たちの発言力が強かったように思える。そういう国だからこそ、自分の意思で動こうともしなかった私は捨て置かれていたのかな。
「クレヴァーナはどうしたい?」
カウディオ殿下は、きちんと私の意思を聞いてくれる。
私のためになんて口にして勝手に行動などはあまりしない。
自分を証明するために行動を起こす中で色んな人と出会って、その中には誰かのためにと自分を犠牲にしたり、何も言わずに大きな決断をする人がいたりした。それを喜ぶ人もいるかもしれないけれど、私は自分で選択させてもらえる方が嬉しい。
「私は……行きたいです。今の私をロージュン国にも示したいと思います。それに娘にも会いたいですから」
私がそう言ったら、カウディオ殿下は笑った。
そして驚くべき言葉を口にする。
「クレヴァーナ。結婚しようか」
その言葉に私は驚いてしまう。
「いつまでも待つといったのにすまない。クレヴァーナ自身はまだ自分の証明が出来ていないとそう思っているかもしれない。それでもロージュン国に足を踏み入れるのならば、クレヴァーナはこの国の国民に正式になっていた方がいい」
カウディオ殿下にそう言われて、気づく。
私は条件を満たしていないから、まだこの国の正式な国民ではない。そのまま祖国に足を踏み入れれば面倒な事態に陥る可能性は十分にある。そのことに私はようやく気付いた。
「私自身がクレヴァーナと早く結婚したいと思っているのもあるけれどね」
「カウディオ殿下……」
「生き生きとして自分の知識を活用し、様々なことを成し遂げていく君は益々輝いている。だから他に取られてしまわないかと、私は心配しているんだ」
そんなことをまっすぐな口調で言われて、私はこくりと頷いてしまった。
「……私も、カウディオ殿下と結婚したいです。祖国に一度足を踏み入れるからというのもあるけれど、私自身が……そ、その、貴方を自分の物にしたいというか、結婚したくて……」
恥ずかしいけれど、こういうことはきちんと口にすべきだと私は思っている。
だからそう口にした。
一度目の結婚は、政略的なものだった。そこに私の意思などはなかった。…今の私は、自分の意思で結婚する。
私の言葉に柔らかい笑みを浮かべたカウディオ殿下は、私に手を伸ばし、そして口づけをした。
――そして私とカウディオ殿下は婚姻届けを出した。




