王弟の愛する知識の花 ①
「クレヴァーナ様。この前はありがとうございます!」
「クレヴァーナ様、今日も素敵ですね」
一年も経てば、私の評価も覆る。
それは私がこの一年間、自分を証明するための行動をし続けた結果である。
私が王城を歩いていると、沢山の人たちが声をかけてくるのだ。それは好意的なものばかりで、私はその事実が嬉しい。
この一年の間、私はがむしゃらに行動を起こしてきた。そうして国から勲章をもらうことも出来た。
私の名は、明確にこの国とそして周辺諸国に広まっている。
外交などでも活躍しているし、スラファー国と交友のある国で自分の知識を使って問題解決に取り組んだりしてきた。だから沢山知り合いが増えてきた。
有難いことに私のことを好きだと言ってくれる人もそれなりにいる。私に恋愛的な意味で告白してくる人もいれば、ただ単に一人間として好ましく思ってくれている人もいる。
ただそういう好意を向けてくるのは、私がこうして活躍したからというのもある。私が……大人しくしたままの、こうして活躍することのなかった私だったらこれだけ好意を向けられることもなかっただろうな。
本当に、たった数年でこんなに私自身とその環境が変わっていくなど思っていなかった。
だけど、こうやって自分の世界というのは、一歩踏み出せば変わっていくのだ。
私は国政に大きく関わっているというのもあって、今は常に護衛をつけてもらっている。
私が暮らしているのは、王都の文官たちが暮らしている寮だ。カウディオ殿下の屋敷にずっといてもいいとは言われていたけれど、私とカウディオ殿下の関係性はまだ恋人というわけではない。だからいつまでもお世話になるのは違うと思った。
それは私がまだ証明の途中だから……。ああ、でもそろそろ私の証明は上手くはいっているから、自分から……恋人になりたいと言ってもいいかもしれない。
そんなことを最近考えている。
カウディオ殿下とは、時折一緒に仕事をして、一緒に過ごしてはいる。
私もカウディオ殿下も忙しく動いているけれど、手紙のやり取りをしたり、本の話はよくしている。
私自身に対する評価が上がってきたというのもあり、私がカウディオ殿下と話していても特に何かを言われることはなくなった。
私が自分自身を証明するためにと動き出した当初は、色んな視線で見られてきた。噂を真に受けて私に何かを言ってくる人はいたけれど……。ただしばらくしたらそういう声は直接言われることはなくなった。そのあたりはカウディオ殿下が動いてくれていたかららしい。というのは陛下や王妃様達に聞いた。
……私が動きやすいように、私がやりたいように出来るように見守って、動いてくれている。
そうやって陰で動いてくださっていることが、嬉しかった。
私も――沢山の人たちと知り合ったからこそ、それらの情報網を使ってカウディオ殿下が大変そうな時は私が救えるように――。
国に仕える魔術師たちと一緒に国に役立つ魔術を生み出すことなども進めている。それに伴って、情報を扱う部隊とも一緒に仕事もしている。……彼らは私がカウディオ殿下と恋人未満友人以上な関係だと知っているので、何かあると教えてくれたりするのでとても助かっている。
この一年で、魔道具に関する資格も私は取った。無事に取りたかった資格を取れて、ほっとしている。
魔道具の設計と作成を進めるのも楽しい。
特許を取ったものもある。これまで作られてこなかった魔道具を作成したりなどもしたので、そのあたりのおかげで私の貯金は潤っている。
そうやってお金に余裕が出来てくると色々と出来ることも増えてくるので、時間があればやったことのないことに挑戦したりしている。
「クレヴァーナ様、カウディオ殿下があとで迎えに来られるって」
「今日も仲が良いわね」
……私とカウディオ殿下は、恋人関係ではない。
だけど、カウディオ殿下は特に私への好意を隠してはいない。というか……周りから見ればバレバレらしいのだ。後、私がカウディオ殿下と話している時の態度も。
両片思いという状況を周りから温かく見守られているような状況で……恥ずかしいけれど、私がカウディオ殿下の傍にいるのを周りが受け入れているのは嬉しいことだとは思っている。
友人になった人たちには「自分の証明とか関係なしに早く付き合えばいいのに」などと言われていたけれど、これは私なりのけじめなのだ。
「『王弟の愛する知識の花』って、凄くぴったりの呼び名よねぇ」
「……その呼び名、恥ずかしいのですが」
「恥ずかしがる必要はないわ。だって、貴方はこの地でカウディオ殿下に愛されて、その才能を開花させているのだからぴったりの呼び名だもの。祖国と、元夫では咲かせられなかったクレヴァーナを、カウディオ殿下だけが咲かせられたなんてとてもロマンチックで素敵じゃない」
そんなことを言われて、私は少し恥ずかしくなってしまう。
『王弟の愛する知識の花』――それは、この一年の活躍を讃えて、いつの間にか周りが呼び出した私の呼び名である。




