私を証明するということ ③
私は外の世界へともっと飛び出していくことにした。
今、やっている自分を証明することはあくまで内側に縮こまったようなものだ。私がどこかに赴くのは少なく、私の元へやってきた生徒へ言語について教えたり、カウディオ殿下や文官の方から聞いた話から対応策を練ったりといったものである。
――きっと外の世界は、カウディオ殿下がおっしゃっているように優しいばかりではない。嫌な思いも多くするだろう。
それでも飛び出すことを決めた私は……まずは、外交の場に連れ出してもらった。
カウディオ殿下と一緒に向かうのでは甘えてしまいそうだったから、一緒に行こうかという申し出は断った。
私と一緒に向かうことになった外交官は、最初は私に対して厳しい目で見ていた。
でも結果を出していけば変わっていくものがあるのだ。
スラファー国の外交官も、他国の方々も私を勝手に見定めている。噂から色眼鏡で見て、中には私が女の武器を使って交渉しにきたと失礼極まりないことを言っている方もいた。
そういう人たちに関しては、護衛についてくれた騎士たちが守ってくれたので問題はないけれど。
あと私は魔術を使えなくても、魔道具に魔力を込めることは出来るので、護身用の魔道具を自分で設計してみた。作成に関しては、本職に作ってもらったけれどね。
こういう魔道具作成は一歩間違えると大事故につながったりするので、流石にきちんと学んだ上でないと自分で作成は出来ない。魔術式に関しては理解を深めているから、頑張れば作れるようになるかなと期待している。
そのためにも国内外で使える資格も取れるようになりたいななどと、やりたいことが盛りだくさんだ。
故郷にいた頃は、時間は山ほどあったのに全然動いてなかったなぁと今と比べると思ってしまう。
「クレヴァーナさん、私は貴方のことを誤解していたようです。カウディオ殿下がおっしゃっていたように本来の貴方は噂とは異なるようですね」
一緒に外交に向かった外交官は、私の働きを見てそう言って笑ってくれた。他の国の方々も私に謝罪をして、寧ろ私が本来とは違う形で噂されることを憤ってくれた。
――自分という存在を示し続ければ、こうして少しずつ過去の私が、今の私へと評価が塗り替えられていくようなそんな感覚がする。
もちろん、一筋縄でいかない人はいる。
そもそも私の評価が噂通りでなかったとしても、そういう噂が流されていたというだけで私を貶めたい人は多いのだから。
「このような場に出るのは苦痛ではないか? 私が愛人として飼ってやろうか?」
そんなことを言ってくるような男性もいた。その人は私の噂も、本当の私も――理解した上でそういうことを言ってくるのだ。
こういう台詞を言われてしまうのは、まだまだ私の証明が十分ではなく、隙があるからだろう。
私がそういう人たちが寄ってこられないぐらいもっと強くなれたなら――もっと私は生きやすくなるだろう。
こうやって外の世界へと足を延ばせば延ばすほど、私は自分という存在の評価を改めていくことになる。
……私は自分のことを、まだまだ過小評価しているのかもしれない。自意識過剰と言われるかもしれないけれど、そのくらいに警戒しておくべきなのだ。離婚歴や子供がいるにしても、私の見た目は周りの目を引いてしまうようだ。
寧ろそういう経歴があるからこそ、愛人などに簡単に出来てしまうのではないかと思われがちな気がする。
そういうのを実感すると、離縁することになった女性は生きにくいのだろうなと実感した。
結婚したことがあるとか、離縁したとか――そういうのはその人の一部でしかなく、その人を決めつける全てではない。
だけれどもどうしても――そういう一面だけを見てしまう人というのは案外多い。
私のことを悪評まみれだとか、英雄と離縁した経歴があるだとか――それだけでしか見ない人だって多くいるのだ。そういう人たちだって、今はともかくとして生きていれば周りから敬遠されるようなことを言ってしまう可能性だってある。そうした時に、それまでの周りへの対応次第では窮地に陥ったりしそうだなとも思う。
私はこの国に来られて、友人たちやカウディオ殿下に出会えてよかった。知識はあっても世間知らずな私がこうして生きていられるのは、周りに恵まれているからだ。
――本当に、この国に来た選択は良かったと思う。
もし周りに恵まれていなければ私はこうやって噂や悪意に立ち向かうことは出来なかった気がするから。
周りの人たちの中で、結局私のことを認めてくれない人はいるだろう。
それでもいいのだ。
私のことを認めてくれて、私が自分を証明することで、私の評価を見直してくれる人は少なからずいるのだから。
私はそう考えて、行ける限りの外交についていくことにした。ただし、故郷には足を踏み入れないことにしている。……故郷に行くにはリスクが高すぎる。それにもし足を踏み入れるとするならば向こうが私の存在を認識してからの方がいい。




