私を証明するということ ②
私のやりたいことをやりたいようにやらせてもらえていること。
それが楽しくて仕方がない。
次に取り掛かったことは、国内の情報を集めること。そこから見えてくるものが何かしらあるのならば、気づいたことを提案していくことにする。
例えば、原因不明の体調不良などの事象について。
なぜ、それが起こっているか私は類似例を頭の中で検索する。もしかしたらその類似例と同じことが原因かもしれないとそれが分かれば解決の一手にはつながっていく。
例えば、自然災害の対応について。
どういう風な対応をすれば被害を抑えることが出来るか。自然災害が起こった際にどういったことで人が困っているか。それも知識で知っている。体験談なども読んだことが沢山あるから。
例えば、最近起きている盗賊団について。
手に入れた情報がどういった目的で、何処を拠点として、どういう行動を起こそうとしているか……推測することはできる。私の頭の中にある、情報を組み合わせていく。
私は言語をパズルのようだとおもって楽しんでいたけれど、それだけではない。
全ての事象が、繋がっている。私の中に積み重なっていた知識と、手に入れた必要な情報を頭の中で組み合わせていく。
私がやっていることは、ただそれだけのこと。
私の紐解き、組み合わせたものが間違っていればカウディオ殿下や周りが指摘してくれる。
私は一人じゃないからこそ、私の頭の中にある知識を周りが正しく使ってくれるから――私は安心してただ組み合わせて、思いついたことを口にすることが出来る。
不安も、心配も――そんなものを考える必要など、一欠片もない。
それにこうして実際の現場のことを知ることで、私の頭の中に新しく情報が積み重なっていく。
そう、一つの答えでは駄目でも、情報を重ねれば重ねるほど、私の頭の中は更新され続けていく。その、更新がまた楽しい。私はどんどん、これから新しい私へと更新されていくのだ。
知識を蓄え続けるだけではなくて、こうやって新しい形に組み立てて外へと放出していく。
そのことがこれだけ楽しいのだと、私はこういう立場になって初めて知った。
私は私自身を証明していくことを決めたわけだけど、その目的以上にこの状況を楽しんでいる自分がいる。
――私は、自分にこういう一面があるなんて思ってもいなかった。
「クレヴァーナは生き生きしているな」
カウディオ殿下は最近の私を見て、そんなことを言った。
「純粋に楽しいと思っています。……昔の私は何かが楽しいとか、そういうことを考えることも放棄していて、自分から何かをしようなんて考えもしていなかった。でも今の私は、ちゃんと自分の意思で考えているのですよね。そして私の考えたことが、この国でそれが形になっていくことが楽しい……」
楽しい。
本当にただただ楽しいとそればかり考えてしまっている。
もちろん、周りの人たちに大きく影響のあることだからこそ、慎重にやらなければならない。けれど、上手くいかなかった場合の対策まで練って、そこから始めるのがいいと思う。
考えなければならないことが多ければ多いほど、その分、私の頭の中であらゆる情報が回っている。その感覚が、気持ちが良い。
「まるで今の君は水を得た魚のようだね。今まで以上に生き生きしていて、魅力的だ」
「ありがとうございます。カウディオ殿下も、今日も素敵です」
こういう会話を交わしているものの、私達は恋人関係というわけではない。私が、自分の存在を証明してからと言ったから。だから多分、友人以上恋人未満といった雰囲気なのだと思う。
「そういえばクレヴァーナの噂を流した隣国の貴族令嬢だけど、私に接触はしてきたから忠告をしておいたよ。すまないが、流石に他国の貴族令嬢に表立っての処罰は与えられなかった」
「それも仕方がないことですわ。私が自分という存在をただしく証明出来れば、彼女は白い目では見られるでしょうし」
……きっとそれはその貴族令嬢だけではなくて、実家の家族や元夫たち、それに祖国でさえもそうだろう。
私が活躍すればするほど、周りから認められれば認められるほど――きっと彼らは肩身が狭い思いをするだろう。……そう考えると、娘はこちらで引き取りたいなと思ってしまう。私が自分を証明することは、ラウレータの評価に良いものも悪いものも与えてしまうだろう。
「吹っ切れたクレヴァーナは本当に、見た目も中身も美しいね。眼鏡も外して、堂々としていて、隙がない」
私は自分を証明するにあたって、眼鏡や晒は外した。だって、私は自分自身がどんなそんざいか証明するためにここにいるのだ。それなのにその私が自分自身の姿を隠して、自分を認めないのは駄目だと思ったから。
今の私は、私自身のことが好きなのだ。
「私がこうしていられるのは、エピスの街で出会った皆のおかげでもあるけれど、貴方のおかげでもあるのです。貴方がこうして私自身も、私の行動も――肯定してくれているから私はこうして行動を起こせているのです」
そして今の私が居るのは、カウディオ殿下の影響も大きい。
カウディオ殿下に特別な感情を抱かなければ、そして私のやることを支えてくれるカウディオ殿下がいなければ、私はこうやって自由に動けはしなかっただろう。
「そういってもらえると嬉しいよ。ところで、クレヴァーナ。そろそろ、もっと外に羽ばたいてみないかい?」
「外へ?」
「ああ。今はまだ一部でしか広まっていないけれど、もっと外へ。君の優秀さはもっと外へ広まるべきだ。その分、嫌な思いもするかもしれないが」
「行きます。私は自分の存在を、どこまでも広げていくつもりですから」
私がそう答えれば、カウディオ殿下は笑った。




