私を証明するということ ①
さて、私は自分という存在を証明し続けると決意した。
そのためまず手始めに行ったことは、スラファー国でも有名な大学へ入学してみることだった。そこに入学できるだけでも箔がつくというか、国内で評価されることだったから。
とはいってもカウディオ殿下には無理をしないようにとは言われているけれど、寧ろ私はとても楽しい気持ちでいっぱいになっている。
だって……これは自分で決めた選択だから。
決意をしたからこそ、私は図書館を退職した。それは私の決意でもあった。何かあったら戻ってきていいとは言われているけれど、私が自分の意思でこの道を選んだのだから立ち止まる気は全くない。
私の気持ちは、ブレていない。
だから不思議と冷静で、大学の試験は簡単に解けた。……ほとんど飛び級だった。そもそもの話、私は知識を蓄えることに関してはきっと人より優れている。知識を応用しなければならないことに関しては足りない部分は多いだろうし、私の知識だけでは追いつかない。でもただ勉強することなら私の得意分野だ。
テストと呼ばれるものと私の相性はきっと良くて、知らない知識は解けなかったけれど本で読んだことは全て埋めることが出来た。
こうやって学んできたものが今につながっていることが私は嬉しかった。
大学の授業はほぼ学ぶ必要なしと言われたので、卒業はすぐに出来そうだった。
空いた時間も私は自分を証明するためだけに使うことにした。
手始めにカウディオ殿下の名を借りてだけど、言語を学びたい人を募集することにした。その際にはその教師が私であることは公表している。
私が活発に動けば動くほど、周りの目はそれだけ鋭くなる。……カウディオ殿下の周りにいる方たちにも私は見定められている。私が本当に、それだけの価値がある存在なのかどうか。
周りの目が鋭ければ鋭いほど、私が一つのミスでもしたら周りは騒ぎ立てるだろう。それだけ私のことを貶めたい人はきっと多いのだから。
でもそれを理解した上で私は引く気は全くないのだ。
利用するものは、利用する。それでいて私は自分の力を示す。
……カウディオ殿下は私に好きなだけ名を使えばいいと言った。もちろん、私がカウディオ殿下の品位を貶めるようなことを行えば切り捨てられるだろうけれど、それでも私を信頼してくれているのではないかと何だか嬉しくなった。
「貴方が噂のクレヴァーナね! 貴方が実際にどういう人物かは分からないけれど、カウディオ殿下は貴方を優秀だと評価しました。だから、貴方に学びたいと思いますわ!」
とある貴族令嬢――クラセリアは、そう言って私の元へとやってきた。
「あの大学を飛び級出来るほど優秀ならば、悪女であろうと関係ありません」
とある文官――サンヒェルは、そう言って私の元へとやってきた。
彼らにとってみれば、私の悪評などどうでもいいのだ。ただ彼らに教えられるだけの優秀さがあればそれでいい。
寧ろ私はそういう考えの二人のことを好ましく思った。
私が初めて、きちんと教えることを決めた最初の生徒。
私自身は娘に何かを教えたり、図書館で働き出してから誰かに何かを教えたりといったのはしたけれど、それだけしか経験はない。
でもやると決めたから――、私は彼らの学びたい言語を教えることにした。
元々独学で学んでいたものだけど、図書館で働いていた間にその言語を実際に使って仕事をしてきた。
そのことも私の自信へとつながった。
ちなみにだが、彼らは私がどれだけの言語を知っているか聞いて驚いた顔をしていた。
「それだけの言語を学んでいるなんてどういう頭をしているんですの?」
「頭がおかしい」
二人に言語について教えているとそんな風に言われてしまった。
私はこの国にきて、優秀だと言われ続けていた。でも……私が思っている以上に私は優秀なのだと自覚する。寧ろこれで謙遜される方が困ると二人に言われたので、そういう点を気を付けることにする。
私が当たり前のように出来ることを、他の人は出来なかったりするのだ。
私は外国の言葉を覚えることが楽しくて、特に苦に思うことなく覚えられた。だって書いてあるから。
沢山の言語を一気に身に付けようとするとこんがらがって、逆に覚えられないと二人に言われたので一つずつ進める。
それこそ、幼い娘に教えていた時のような感覚で進めることにした。
それに人によって言語を学ぶ能力の差はあるみたいなので、そのあたりも考えながら進める。
何回か教鞭をとっただけで、二人の態度は変わっていた。
徐々に私に対する敬意のようなものが言動で現れるようになっていった。
まず一つの言語を彼らは習得する。もちろん、完璧であるとは言えないかもしれないが、少なくとも外交などで使える範囲の言語能力は身に付けられたはずだと思う。
二人から評判を聞いたからか、他にも生徒が増えていく。
そうやって少しずつ、私の存在が広がっていくことが楽しい。
多言語を操れる人が増えれば増えるほど、交渉に役立つ人材が増えることになる。私が教えた生徒たちの輪がそうやって広がっていくのを想像するだけで面白い。




