過去の私のことと、現在の私の決意 ⑤
「はははっ、クレヴァーナは本当に面白い。もちろん、私は君の証明の手助けをするよ。兄上も、才能豊かな君が国の為に発揮してくれるというのならば喜んで頷くだろう。その代わり、投資に見合った活躍はするつもりなんだろう?」
「はい。この国にやってきて、私は自分で思っているよりも優秀だと分かりました。私は貴方が信じてくれた私の才能を信じようと思いました。カウディオ殿下や図書館で出会った人たち、皆が私に優秀だと言ってくれた。だから――私はそれを使って、他国にまで響くぐらいに自分を証明します。カウディオ殿下に後悔をさせません」
自分でもこれだけ自信満々に言い切るのはどうなんだろう? と思う。だけど、カウディオ殿下や周りが私の才能を信じてくれたから。――私ならば何だって出来て、何にだってなれるとそう言ってくれたから。
それならば、私は私を信じたい。
それにこれだけ出来ると思っていた方がきっといい。
思い込む力というのはきっと大きな力なのだ。故郷で私のことを悪評の通りの存在だと思い込んでいた周りのように。――その思い込みを私は良い方に使う。
「大きく出たな。……ただその選択はクレヴァーナにとって辛いものになるだろう。君がクレヴァーナ・シンフォイガのまま行動をし続けることをよく思わない者もいるだろう」
「そういう存在を、全員黙らせます。私が自分のことを証明出来れば、そんな声も無くなるはずです。それに周りから何かを言われるのは全て、覚悟の上です」
試すように問いかけてくるカウディオ殿下に私はそう答えた。
そう、全て覚悟の上だ。
私がこうやって表舞台に、悪評が流されているクレヴァーナとして立つことはきっと大きな影響を生むだろう。私のことを気に食わない方たちは、私のことを叩き潰そうとするだろう。表舞台に立たないように、国政に関わらないように――。
でも、そんなものは全部はねのける。何があったとしても私は立ち止まる気はないのだから。
正直、出来るか分からなくて……体は震えそうにもなる。だけど、私自身がやると決めた。
他でもない、自分自身のために。
「そうか。クレヴァーナが決めたことなら、私は全力で応援するよ」
「はい。……それと、もう一つ貴方に言いたいことがあります」
「もう一つ、言いたいこと?」
カウディオ殿下が何を言われるのだろうか? と楽しそうにしている。
……正直、此処で話を止めても良かった。そもそももう一つの話をすれば、カウディオ殿下から嫌われてしまう可能性だってあるから。
だけど、私は止まれなかった。
「私はカウディオ殿下をお慕いしております」
はっきりとそう言った。
そう、私はカウディオ殿下のことを好ましく思っている。それは紛れもない事実で、私はこの方の隣に立ちたいとそう思ってしまった。
「突然、こんなことを言われても困ることは分かっています。ただ知っていて欲しいのです。私は貴方のことを好ましく思っています。悪評まみれのクレヴァーナ・シンフォイガのままでは貴方の隣に立てない。私はそれも、嫌だと思いました。このまま貴方と話せなくなることも、嫌です。だから、私が自分の存在を証明した暁には、私のことを考えてくださいませんか?」
受け入れて欲しいなんていう烏滸がましい意見は言えなかった。なんだかんだ私はまだ自分という存在に自信がないのかもしれない。
自分の存在を世界に証明するなんていうそんな大層なことを口にしておいて、自分の恋愛事に関してはこうだなんて自分でも呆れる。
「クレヴァーナ、どれだけ自分に自信がないんだい?」
おかしそうに、カウディオ殿下は笑った。
……嫌がられてはないと思う。寧ろ、何処か嬉しそうに見えるのは私がそういう態度を期待しているからそう見えているだけだろうか。
「クレヴァーナ、私も君のことを好ましく思っているよ」
「はい!?」
その答えは想像していなかったので、思わず驚いて大きな声をあげてしまった。
「何もおかしな話ではないだろう? 君はとても素敵な女性なんだから。美しくて、知性があって、何処か世間知らずで不思議な雰囲気を纏っていて。どこか浮世離れしているようなか弱いイメージを持ち合わせているけれど、何か起こった時に自分の力で立ち上がろうとする強さがある」
「え、ええっと……」
「私が少し褒めただけで顔を真っ赤にしているのも可愛いと思うよ。褒められ慣れてなくて、自分の魅力を理解出来ていないから何処か無防備で、笑った顔も可愛い。結婚した経験と娘がいるとはとても思えないほど、純粋で、まっすぐだ。見た目も中身も……すぐに折れてしまいそうな危なっかしさがあるのに、実のところは違う。そういう一面も含めて、魅力的だと思う」
「ああああ、ありがとうございます!」
私はどうしようもないぐらい動揺していた。だってそんな風に言ってもらえるなどと思ってもいなかったから。
ドキドキして、落ち着かなくて、私は明らかに挙動不審だと思う。
というか、可愛いって! 可愛いって言われているのだけど、落ち着かない。
嬉しいのだけど、どういう態度をしたらいいかもわからない。
「――だから、私は君が傍にいてくれたら嬉しいなとは思うよ」
「あ、ありがとうございます! で、でも私は自分の証明をしてからではないと、その、カウディオ殿下とそういう関係にはならない方がいいと思っています! だからその……私はカウディオ殿下よりも年上です。結婚歴もあり、元夫との間に子供もいます。私が自分の証明を終えるのはいつになるか分かりません。お待たせしてしまうかもしれませんけど……それでも良かったら、お願いします!」
私が一気に、動揺したまま言い切ればカウディオ殿下は笑っていた。
「ああ。いつまでも待っているよ、クレヴァーナ」
そして、そんな風に告げられた。
――そうして私は自分の存在を世界へと証明するために動き始めることになった。




